芋まんじゅう

 知人の個展を拝見に伺った、大型の画面が 並ぶ見事な展示作から作者のこれまでの作風の推移を窺える楽しく貴重な作品達が並んでいた。それまで小生が遠隔地と思ってきた会場の場所の辺りには全く土地勘が無く、行く道すがらの電車の車窓を流れる景色も目新しかったが、訪ね当てればもう自分の頭の地図に格納されて、既にそれは隔地では無くなっていた。

 其処は小江戸と言われる川越市に近く、まだかねてから話題のご当地を訪れたことはなかったこともあり、寄り道をして探訪することにした。駅に着くと観光案内所でMapをもらい、時分どきなので 序でに昼食のおすすめ処を聞いてみた。法被姿のボランティアのおじさんは言下に「うなぎでしょう!」・・・と江戸時代創業の名店を教えてくれた。
 小江戸ならば…江戸前のそれは逃せず、駅から歩いて訪ねた店の暖簾をくぐった。
昼時とてお店は来店客で賑っていたが、やや待たされて占めた小あがりではビール・グラスを傾けながら、つまみに骨のから揚げをバリバリと噛み砕き、お重を待ちながらMapで街のあらましを頭に入れていた。
 さすがに老舗のたれの味は、舌にとろけるようなウナギの焼き具合を引き立てヽ大満足だったが、最近のウナギ稚魚の枯渇・値段の高騰にはこの先の憂いが残ったのも事実だった。

 裏通りを含めて眺め回す、何時もの歩き方でもこの町並みを歩くのにさほどの時はいらない、重厚な土蔵造りの家並は度々写真で見ていた通りだった。
 その辺りの街では、あたかもテーマ・パークの如くにいろいろな商品を並べる商店さえレトロに建てられて、そぞろ歩く観光客で賑っていた。
 

 ある商店の店先では「甘栗」が並べられて数人の客が買い物の最中だった、この辺りなら土地で採れた栗もあろうかと思い、試食を勧める女主人に「地のものですか?」と聞いてみた…と目の前の客の一人が「アレッ!!」と小生を見て声を上げた、声の主は六、七年前まで時折小生の個展を見に来てくれていた方で、個展会場のあった辺りの銀座勤めを終えたのがご無沙汰の素だったらしい、今日は知人ご夫婦をご案内中だったとか、まったく奇遇だった。
その場でも話したのだが、昔パリのオペラ座前で焼き栗を買い食べながら散歩をしていると、向こうから歩いてくる以前の会社の同僚にバッタリ出くわした・・・ことを思い出した。
 栗は偶然の再会を演出してくれるのだろう・・・!?
さて問いの答え、栗は天津産だったが「何所よりも、最上級!」と女主人は付け加えた。

 前日に日本橋のデパートの日本画展で観た、この町の老舗菓子店を正面から描いた出展作品が印象的だったので、その店を探し当てカミさんへの土産に幾種類かの菓子を買い求めた、もちろんこの町と云えば「サツマイモ」・・・それを素材にした幾種類かだ。
「お店一番のオリジナル菓子と云えばどれ?」などと尋ねる小生に店員さんは親切な応対で沢山の種類から選んでのおすすめだ。
「九里四里美味い、十三里半」とは…焼き芋の事だったかな?・・・
それはさておき、新商品だろうか「芋シュー」には東京までに必要な保冷剤を入れてくれた。

 帰宅後、先ずは芋シューをカミさんと味わって 甘く冷たいシュークリーム、ほのかに残る芋の後味を楽しんだものだ、あとの和菓子は翌日以降のおやつに残せる焼き菓子である。

(2012)

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