鱧(はも)

 夕方のテレビを点けたら淡路島近くの沼島で獲れる高級魚について美味しそうなレポートを放映していた
小生は数日前に取材の旅でご当地近くを訪ねたばかりだったのに…

 関西の夏は鱧(はも)は欠かせぬ季節感らしい、長い魚体には小骨が多く3200本も骨が数えられるとか、骨抜き技術を開発して刺身も口にできるようにした板前さんをテレビは紹介していた
関東人の発想の中に並ばなかった食の風物詩、おしいことをしたと思いながら、花のように骨切り湯通しした白身魚、梅肉たれなどが添えられた冷えた皿を想い描いた

 旅は大潮の鳴門うず潮を観るのが目的の一つだった、この日昼前の干潮時に乗った小型観潮船からは、真近で渦巻く潮の流れの動きや変化に感動した、海峡の一部には堰のような岩の段差があり、段差は1〜1.5m位だと船員が教えてくれた
潮が岩を乗り越え迸り流れるのが潮の干満の所為なのだと不思議にさえ思えた、小回り得意の小振な観潮船は右に左に渦潮を追い、余すところなく観潮を堪能させてくれた

   陸に上がれば本四架橋の一つ、大鳴門橋内の観潮遊歩展望台のガラス床から遥か下の急流を見るのだけれど、壊れるはずは無いと解っていてもガラス窓の上に載るには気おくれがした
こうして船上から、橋上から渦潮の流れを眺めていた…6時間経つと潮の流れの方向は逆になる、内海に向かって流れる夕方の満潮ではやや穏やかな印象に見えた
 本四架橋三本のうち鳴門海峡を跨ぐのは最初に出来たルート、完成後もう28年(1985年完成)経ったとか

 ご当地は以前にも友人達と訪ねたことがある、四国寄りの小鳴門橋が完成した頃だった、「千畳敷」が鳴門海峡究極の眺望観光地、遥かな海上 の光景を陸上から眺めたものだ
 山上にあったのは、その前年に建設され話題だった本四を結ぶ電力送電の巨大鉄塔で、赤白の塗装をまとい聳え立っていたのだが、今は代って大鳴門橋の巨大な 主塔が灰色の巨体で建っている

 観潮船も昔に比べれば気楽に船やルートを選べる、その上、空中からの観潮さえ誰でも容易になり、改めて半世紀の時の流れを納得せざるを得なかった


(半世紀前の旅行で撮ったパノラマ写真・・・写真を切り貼りしてつなげたもの)  

 とは云うものヽ、取材の一人旅ではシングル泊の日本旅館選択が厳しいのが実情、ゆっくり夕食を楽しみ、左手を動かせるのは、なかなか・・・せめてご当地の名物食 をと選んだのは沿道料理屋の「鯛の姿造り」、車を運転途中の身では酒気は禁物、と云う訳で、折角の鱧にお目に掛れなかった・・・これを言い訳にしておこう

(2013)
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