フライドチキン  

 本や著者の名前はすっかり忘れてしまったのだけれど日本に来たアメリカ人の話だったと思う。
故郷アメリカを思い出しフライドチキンを食べたい、いつも変わらない味を・・・と

  ハンバーガーやフライドチキンなどに始まったファーストフードといわれる文化はアッという間に日本全国に広まった、いや今や世界中におなじ看板が氾濫している、だから異国の旅行者には いろいろと便利なこともある。
同系列の店なら国によって売っている食物に違いがそう大きいはずもなく、システムが同じだから品選びや注文だって迷うことはない、「これ」と言えばよい。

  だが最近では便利であることが少し制約されてきたこともある、お世話になるトイレがフリーなのでついそれだけ目的で終わる客が多いのだろうか、近頃では商品を買えばレシートにトイレへの ドアを開ける暗証番号が印刷されてあるなんて言うところもある。
だが旅の楽しみである土地の名物や地方の特色ある食文化を尋ねようと言う向きには無縁のところであろうか。

 これはこうした店が初めてわが国へやって来た大阪万博でのことである。
 筆者も閉幕まで残りわずかという頃にやっと一人で会場に行くことができ、太陽の塔を仰ぎ、各国のパビリオンや月の石を見る長蛇の列に並んだのである、時代の句読点となった大阪万博は会期中ずっと大入り盛況だったようだが、この日も大勢の入場客でどのレストランも売店も混雑していた、 列に並び昼食用に買ったのは「フライドチキンのペーパーボックス」、アメリカ文化をと云うのだが・・・

  さてベンチとて空いているものは無く 皆さんシートなどを敷いて遠足もどきである、だが全国からはるばるの会場ではこれまた楽しい想い出だったに違いない。

 小さなペーパーボックスをひざに載せ、手頃な縁石に腰掛けて箱を開くと中にはフライドチキン数個と小さな容器に入ったコールスロー、そしてロールパンが詰められていた、ペーパーナプキンはたくさん入っていたが、周囲はファミリーで賑やかである・・・
当然手づかみの一人の昼食は周りからは寂しそうに 見えたのか・・・
と、目の前のシートで一族でお弁当を開いていた老婦人・・・ 握り飯などのたくさん入ったお重を差し出して「良かったら、お食べに・・・」と勧めてくれたのである。
 小生期待のアメリカ文化も老婦人には余程小さくみすぼらしく見えたのかな、などと思い苦笑したものである。

 現在では小さくとも高カロリーのファーストフードや飲み物がアメリカを脅かす肥満のもとになるのだとは当時考えも及ばなかったのだが、そのとき体験した味は少しも変わることなく何年後も我が口に入っていたから、冒頭のアメリカ人のようにやはりアメリカの味なのかも知れないと思ったことである。

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