伊勢海老

 佐世保の友人宅を訪ねた我々の仲間が「伊勢海老の刺身」をご馳走になってきて 、 「とても美味かった」と自慢していた。
だからその後 我々が旅行することになった時、 「是非それを・・・」と 友人に注文しておいた。

 ところが訪ねたその日・・・国立公園でもある九十九島(つくもしま)と呼ばれる・・・その 辺りの多島海は、 白波が泡立つ春の嵐に見舞われていて漁がないという。「はるばる 来たのに残念だナ」と思っていると、 せっかく来たのだからと友人宅では特別に手配をして呉れたそうで、夕食の膳には ちゃんと望みの品が並んでいた。

   背中には自らの刺身を載せて大皿の上にどっかりと威張っている。  
ためしに頭から飛び出して光っている目玉をつまむと「ギィー」と 鳴いた。
  シコシコして甘味のある伊勢エビの刺身は聞きしに優る味だった。
そして、それが西海橋水族館の生簀から取り寄せた物だったこと を聞いて、    ことさらに印象が深かったのを思い出す。
 その後、各地で 何度も伊勢海老の刺身を口にすることはあっても、やはり伊勢エビの刺身 は  「佐世保に限る」と思い込んでしまった。

 近年久し振りに佐世保を訪ねることがあって、今度は友人が街外れの料亭を用意 してくれた。
聞けば、その店の経営者は九十九島の島陰に大きな生簀を浮かべ、 日本一の伊勢エビ の供給業者になると頑張っているらしい。

 そう言う訳で今回は刺身はもちろんのこと、ボイルドしたエビのサラダ、そして塩焼き など 一人当て 3本も平らげてしまったが、久し振りのこの味は相変わらずで、伊勢エビ はやっぱり ご当地が一番だナ と思った・・・

 その名が示す、伊勢辺りの名産だったのだろうが、赤茶色の硬い殻につつまれた その身はもちろん美味しい。古来、この大型のエビは正月や祝い事には付き物である。

 ピンと勢いよく伸ばしたヒゲがなんとも悦ばしく、立派である。

 

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