コーヒー コーヒーについて想い出をたぐれば数限りなく浮かんでくる
「一息入れよう」、「お茶にするか」、「コーヒーでも如何?」
お茶は普段良く飲んでいるのに「王室御用達」
とか
「お茶壷道中」、「お茶室」とどこか高貴、格式といった雰囲気が漂ってくる、
それに比べればどちらかといえばコーヒーは気軽な雰囲気のようだ
絵との関わりでは小生の原点のような愉快な仲間達がいる、中心であった絵の師は残念なことに今はないが
、その薫陶を受けた仲間達との行事は相変わらず活発に続いている
温泉旅行もその一つ、旅の大きな目的は夕べの宴なのだが、そこは美術愛好の諸氏であるからバッグにスケッチ・ブックを収めているのは当然として、夕方になるまではご当地で美術館などを訪ね歩くことも楽しみになっている
。
これは上州の奥まった温泉場行きでのことだった、途中の温泉場のとある記念館を訪れることになっていた それは大正期
にその辺りにアトリエを構えたある画家の業績を記念した私設の美術館だった |
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関越道を降りて山を登り目的の記念館の庭にある駐車場に車を止めた、山の斜面の林には
建物が点在していた・・・一同賑やかに小道を進む途中では すれ違った茶色のウール帽子に
黒の
オーバーの紳士から丁寧なご挨拶があった、一同は館の偉いさんなのだろうとは思い
ながらもそのまま記念館の入口を入った。
その画家は有名だが小生の好みからは外れており、展示の諸作品からは当時として
なかなか
モダンな作風から 今で言えば優秀なグラフィック・デザイナーかイラストレーターだったと
再認識した位だったが、展示品の多さや、建物の造り、展示の工夫などに感心をしながら観覧を
終え館外に出たのである
館外に出た同行グループの数人が出口付近にたむろし昼食後間もない時間とて元気な
一人が声高に
「コーヒー飲みたいな」とつぶやいたときに丁度通りかかったのが先ほどの紳士、
親切に「あちらの建物でコーヒーを召し上がれますよ」と建物を指差しながら通り過ぎたが、
すぐさま きびすを返して一同に近づき「今夜は温泉にお泊りですか?」と問う、これからの
予定を話すと、それならと「もし時間があるなら、よろしかったら、今日は公開していない
別の展示をご覧に入れましょうか?」と意外な申し出を受けたのである、それには一同は二も
なくお願いしたのは申すまでもない。
そして「館長」だった彼氏の取って置きの展示のご案内がそれから始まった。ミステリアスな
雰囲気で案内され、隠しエレベータで登った3階の秘密の戸のその奥は和室だった。
入口を潜り入った、静かに開かれた奥の床の間には画家の軸が掛っていた、作品はこの画家の
盛時のものと見受けられた、
女性を描いて有名なこの画家の描く女性は、あたかも病み上がりのようであり なよとした細身
の着物美人なのだが、その軸の女性は 福与かに そして爽やかに
描かれ 着物姿の彼女は
この先の幸せを暗示するようでもあった、また、それを引き立てヽ軸装丁がモダンで粋な仕上がり
だったので、畳に座して見つめる一同はしばし見とれたものである。
和室のご披露に次いで、別室の秘蔵の品を拝見して辞そうとした頃、「館長」氏は「よろし
かったらあと一つ
是非ご覧に入れたいものがある」と・・・
それは明治大正期のガラス器のコレクションを収めたひと棟だった。なつかしのガラス器は見事
だったけれど、それにも増して工夫を凝らした展示の、あたかも舞台のしつらえがお勧めの重要
な部分だったようだ。
「館長」氏の展示の工夫にこめた熱意が充分感じられたのだった
思いもかけぬ拝見を終えた後、特別室で「館長」氏がご馳走すると言う美味しいクッキーが
そえられたコーヒー、頂きながら私設の美術館の運営のご苦労やその哲学などについて伺う
ことが出来たのだけれど、「美しいものが好きなんですよ」だけではない、「それを生かす展示を、
考えて、造ってゆきたい」と続けた言葉が印象に残ったのだった
「コーヒー飲みたいな」が、思わぬ収穫となった記念館見学に替ってしまったお話でした
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