第3のビール
 
   すし屋のカウンターに腰掛ける、中華料理店で夕食を、居酒屋で仲間との会合、割烹のお膳を前 に・・・「とりあえずビールを下さい!」
 お店の人は「生にしますか」当方「中ジョッキ!人数分お願い」、瓶ビールなら「何本、グラスは何個ね!」という具合。チョッと気が利いた店ならば銘柄名や 大、中、小の瓶サイズを聞く 、この程度がわれわれの若いころのビール事情だったと思う。

 世界中に宗教的禁制の国は別としてもビールにお目にかかれないところはまずないだろう。
ドイツ、オランダ、ベルギーやチェコなどビールが特に有名な国々では自慢の品もずらり、町々の地ビールにも特徴的な味わいがあって、小生の喉にさえその違いや特色が伝わってくる。

 暑い日差しのポルトガルでとてもうまかったビールがオランダ産だったことがあり、後年アムステルダムで思い出して飲んでみるとそれはご当地では小さな方の醸造所。町の巨大メーカーの名はわが国でも響いているそれは薄い色のサッパリ系のビールなのだが、わが好みは褐色系の味わいを感じる前者のほうだった。

 チェコにはアメリカの巨大メーカーと同名称の醸造所があり、それでかつては商標争いもあったとか聞くが、チェコからの移民が郷里を懐かしんで新大陸でビール造りを始めたのだろう 、そんな事はこの際どちらでも良い、東欧旅行の折にチェコ南部のビール醸造工場見学をしたことがある。
日本国内のビール工場見学な何度か経験しているからおおむねの醸造過程は理解できる、そしてビール工場見学のハイライトは出来立てビールの「試飲」の楽しみ・・・余談だがビール工場見学の折の説明にとても感銘を受け、それがきっかけとなって卒業後ビール会社に就職を果たした先輩の一人がいる。

 試飲の際にはいろいろと解説がある、醸造について、ビールのグラスへの注ぎ方、飲み方等々実演も交えて・・・面白おかしく会社でも話し上手を選んで配置しているのだろう、案内の社員が楽しく解説してくれる。小生などはそれはともかくとして目の前の でき立てを喉に通すのを第一の目的と楽しんでいたものだ、ビール工場から出荷されていないビールにはまだ高い税金はかかっていないと云うのも気に入った。
 
 チェコの醸造所の低温貯蔵庫の大タンクから注がれたグラスを前に説明をしたのはやはり社員の金髪の別嬪さんが説明、ツアーガイドの翻訳を聞きながらだった、もちろん良く冷えたビールの味は口に合った。
 その晩はチェスキー・クルムロフ泊り、とても小さな町だがチャンと地ビール工場がある、だから夕食に選んだ「とりあえず」はその地ビール・グラスだったことは云うまでもない。

 日本国内でビールが多品種になり始めてから久しい、今ではどの銘柄にしたものか店先でも選ぶのに苦労する、勢い好みの銘柄・・・あるいはなじみの銘柄・品種に落ち着いてしまう。ビールに似た発泡酒が発売されて何度かは試してみたが税制の違いで安いというが、中に口に合うものが見つからずにずぅ〜っと同じドライを飲んでいた。

 我が家ではスーパーで新しい缶を何種類も仕込んでくるのはカミさん、自分は飲まないのに冷蔵庫で冷えている。一年ほど前のことその中の一本にそれまでの馴染みのビールにとても近い味を発見してひそかに試し続けていた。
 ある友人連中との飲み会、取り合えずのビールで始まったその席で友人の一人が大発見を告げるように「その第3のビール」といわれる銘柄名を挙げたのだ、やはり値段のうちの税金分も大いにすくないらしい。

 わが意を得たりと即座に同意したのだが、実際に1ケースで千円札が2枚分安いとなれば喉だけではなくて懐も喜ぶ、以来我が家は何十年も続けて飲んだビールから鞍替えを果たした。
 先年南仏のスーパーでワインを探していたらペットボトルのミネラル・ウォータより安くて驚いたことがあるけれど、第3のビール缶は自販機のオレンジジュースやコーラ、そしてミネラル・ウォーター1本よりも安いのが大いに気に入っている。

(2010)
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