バナナ
 
   この春からの朝のテレビ連続ドラマで、ゲゲゲの家族が面白い。
舞台は終戦直後と言うわけでも無く、すでに戦後ではないと言われ始めた、比較的 身近な時代だから小生の身の回りを思い出しながら楽しんでいる。
 主人公の漫画作者はバナナがとても好物だそうで、それは苦しい戦中のニューギニアでの体験からなのか、新婚時代のノスタルジーからなのか、ともかくバナナは煮ても焼いても 、もちろん熟した・・・熟しすぎの、見てくれの悪いものまで美味しい、好物だと先日テレビで語っていたのを思い出す。 

 太平洋戦争が始まった頃に我が家では台湾バナナは口に出来たのか、出来なかったのか覚えてはいないが、その頃口にした黒い乾燥バナナの特別な美味はずっと記憶に残っていた。
 戦後、バナナも店先に並ぶようになって、それから、いくらでも口に出来るようになってからも、なかなか乾燥バナナに出会うことは無かった。
 あるとき店先に乾燥フルーツの小さな袋が並んでいる中にそれを見つけた時には早速買って味わったものだ、それは昔の記憶を呼び覚ましたものの少し感じが違っていた、すでに回りに旨い食品達が揃いすぎていたからかも知れない。

 バナナの輸入がやっと自由化される頃には、国内のリンゴ農家が競合すると自由化反対運動をしたことなどは昔話だが、美味しい新種の登場で頑張っているわりに価格も高騰したリンゴに比べれば、バナナは鶏卵と並んで物価の優等生で、店頭価格が変らない代表の一つではないだろうか。
栄養価が高く、競争選手の補強食品になったりするし、ゲゲゲの作者はまことに当を得た好みの栄養食品を選んでいたものだと思う。

 ところで俳聖の芭蕉は庵の門先に植えた芭蕉(はせを)の木にちなんで俳号にその名を用いたと云う、古くは「はせを」と表したから各地の句碑にはこれを刻みこんでいる石も多い。
奥の細道を320年後に辿ると、もちろん古道などを辿るすべは無くなってはいる。しかし車で走る地道の周りは緑の多い穏やかな日本の風景があり、芭蕉翁達が眺めたであろう とてもゆったりとした良き日本を再確認する旅を楽しむことが出来た。
 そのような気分は描いた水彩画作品の中にも表れていたのか『新・おくの細道』と題した今年の個展会場では観客の皆様から『緑がとても多い・・・癒された」とご評を頂戴した。
 

 毎回個展を楽しんで頂く台湾出身の若奥さんがいて会場でご主人と何やら話し合っている、聞けば案内状に見る「芭蕉」は「てっきり、バナナのことだと思い込んでいた」とか・・・そんな事になろうとは「はせを」翁も苦笑していたかも知れない。広辞苑で見ればバナナ(甘蕉)はバショウ科の多年草で実芭蕉と言うそうだ。
水彩画の個展会場で偉大な俳句の先人を学び楽しんでいただけて、良かった。

 カロリー豊富なフルーツのバナナは我が家のデザートにも時折登場する。

(2010)

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