あわび

 壁に貼ったカレンダーも残り僅か一枚になってしまった。
あっという間に過ぎ去ってしまったこの一年も不景気といいながらいろいろ あったものである。
さて、気が早いが、残り一枚のカレンダーをめくれば目出度く新しい年が 明けるはず、師も走る この歳末は来年に希望を託す準備月にしたいものである。

   お目出度いといえば祝い事には必ず登場するのが「のし(熨斗)」、のしはあわび(鮑)の身を細く長く切り、乾燥させたもの、伊勢神宮などの神事には必須である。
また身近では熨斗袋の右肩には熨斗のシンボルが印刷されている。
古来から欠かせない祝い品であるらしい。


  鮑を乾かしたものは古来からわが国の重要な特産輸出品であり、大陸との 交易に大きな役割を 果たしていたそうだ。その証拠に中国料理ではこれは 珍味である。

 伊勢の外宮の辺りに古くから「蒸し鮑」を商う店があって土産に買って帰った 事がある。
とっても高価なものだったが袋の中身の煮汁まで使って下さいとの説明通りの、 それは珍味で ある事に間違いはなかった。
乱獲が祟って鮑はますます貴重なものになったこともあり、浜での収穫の取り決めも 大変に厳しいらしい。
それでも旬の頃には磯の香りをふんだんにまき散らすあの歯ごたえが料理店や すし屋に登場する。
  小生の好みを言えば比較的薄切りにした刺し身が良い。しかし歯にコリコリ当るような ものもまた 磯の香りをしのびながら味がある。
結局好みといえばかつて薄切りをとても美味しいと感じた時以来、それが良いと思い 込んでしまった
たわいのない記憶かも知れない。好みはそれぞれだ。

 一枚の貝殻を背に海の底の岩についた海藻を舐めとり、何年もかかって大きくなった 鮑、神代の 昔から人とのつながりの深かった鮑、「磯の鮑の片想い」などと失恋のたとえ に使われるなどというのは 不本意だろう。

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