アボカド・プリン

 折りしも梅雨の季節だから降り出したのは仕方がない、それにしても先程までの青空はどこへ行ったのかと言う急な雷と大粒の雨が降ってきた。
松尾芭蕉翁が弟子の曾良と奥の細道の旅をした同じ季節に、足跡を残した地を訪ねて風景を眺め絵にするのが今年の旅計画、白河の関を越えてこの日は須賀川へやって来た。

 町から離れた乙字の滝をスケッチしていた頃は木陰が恋しいほどの陽の光だったが、牡丹園をめぐっている頃から黒雲が湧いてきた。牡丹は季節外れだったけれど、 それでも時期をずらして咲かせたという何本かのボタンの花があり、季節の花の主役はバラ園に咲く色とりどりのバラ達だった。

 芭蕉翁達はこの町に一週間滞在したとのこと、町には沢山の史跡や句碑が残されている。それらを見学するのも同じ季節に・・・と言うのが目的だから雷雨位は良しと しなければならない。
・・・と、町の路地に横断幕を掲げてあるのに気付いた 「芭蕉まつり」・・・

 その幕の下では大勢の大人たちが忙しく働いている、その中の一人に尋ねると商店会企画の毎年恒例のまつりだったそうで、設営した舞台では歌や民謡踊りが盛大に競われる予定だったそうだ、けれどもこの雷雨で予定を早めに切り上げ、いまは後片づけをしているところだと言う話。

 まつりの切り上げは気の毒だったけれど、そのスタッフの方々からいろいろ情報も頂いた、まさにこの辺りが芭蕉翁ゆかりの中心のような場所だった。その中に町内の老舗の和菓子舗のご主人がいて時間があったら寄ってくれとのお誘いも貰った。

 東京の深川からここ須賀川まで芭蕉翁の足跡を辿って巡って来たけれど、どの土地でも史跡が大切にされているのは良く判った。
320年前のこの季節にこの道を、この路地を歩いていた芭蕉翁達の姿を想像するだけでもロマンを感じるが、何よりも日本人の間の芭蕉人気がとても高いのを感じていた。

 さて路地の史跡「軒の栗」を見学したあと和菓子舗にお邪魔した、カフェがありますからとは伺っていたけれど店の入口のモダンな設えにチョッとビックリ、上階の店内は和風のロフトの剥きだした太い梁の立派なこと、蔵を改装したモダンな店 内には設計者の紹介のパネルもあったが旧い街並との対比も面白かった。

 品の良い若い女性のサービスに沢山の種類の菓子の中から小生が注文したのはアボカド・プリンとコーヒー、和菓子店だが今の時代である「和菓子もやっています」と言うことらしかった・・・、
思わぬ旅の行きずり、一寸したふれ合いからおやつの時間、思わぬ一休みをすることが出来た。
帰りには一階の明るい菓子店舗でにこやかな若奥さんとも挨拶をしたけれど、地方都市、歴史のある旧い町の老舗の頼もしい挑戦が良く判った。


カフェ大黒屋
   甘味を押さえたアボカド・プリンは美味しかった。ブレンド・コーヒーともどもボリュームはがあり、コーヒーにもこだわっていますとのご主人のお話の通りだと思う。

 空を見ると流れる黒雲はだいぶ薄くはなっていたが、まだ遠雷が時折聞えていた。
 

(2009)
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