携帯の着メロが鳴ったとき、発信者が誰なのか三井には薄々わかっていた。
 夜はまだ浅く、一日が終わるまでまだ間がある。帰ってきたばかりで何もかも放り出し てある部屋の中をひとわたり見まわしてから、三井は呼び出しに答えた。
「おう」
 わかっているから、素っ気なく答える。昂揚する気持ちを抑えるように素っ気なく。
『三井さん? オレです』
 推測通り、今年から大学の後輩になった男の落ち着いた声がした。練習後いつもの定食 屋で仲間たちと食事をして、つい先刻、寮住まいでない彼とは別れたばかりだった。
 だが、声だけでわかるなどと思う自信には反発したくなる。
「誰?」
 電話の向こうで小さく笑う声がする。
『三井さんを一番愛している男です』
「だから、誰だって」
『……そんなに心当たりがあるの?』
 くすくす笑いが伝わってくる。三井は舌打ちをした。結局じらすだけ自分を窮地に追い 込むことになってしまった。
「バーカ。そんなヘンタイ野郎はてめーだけだ、仙道」
『よかった』
「ヘンタイって言われて喜ぶな、バカヤロウ」
『何でもいいんです。三井さんのそばにいられるなら』
 仙道の科白は歯が浮くようだったが、三井の心にまっすぐにしみこんでくる。 その笑顔まで思い浮かぶようだ。それでも素直に反応できない三井だが、先を促すこと ぐらいはできた。
「で、何だよ」
『あと四時間ぐらいで三井さんの生まれた日ですよね』
 デジタル時計の表示が八時過ぎを示しているのを確認して肯定の答えを返す。
「おう」
『オレに何かできること、ありませんか。欲しいものでもいいです』
「ああ?」
 てっきりすぐに会ってほしい、一緒に誕生日を迎えましょう、などと言われることを 予期していたのに、その予想を外されて三井はすぐには反応できなかった。結局一緒に いることを望んでいるのは自分の側もであることに、そのことで気づかされてしまう。 だから、少しむっとした。
「おまえにやってもらいたいこと?」
『はい。何なりと』
「そうだな……」
 何とか仙道をやりこめてみたいと思った。
「じゃあ、駅前で裸踊りでもしてもらおうか」
『……』
 あまりな要求を聞き、仙道の当惑する様子が伝わってくる。三井はほくそ笑んだ。だが、仙道の判断基準を彼は少々見誤っていた。
『それじゃ、いますぐやればいいですか? オレ、がんばります、三井さんのために!』
 電話はそこで切れてしまった。一瞬三井の頭の中が空白になる。我に返って慌てて 仙道の携帯をコールするも、呼び出し音は虚しく耳殻に反響するだけだった。
 そういえば、定食屋で仙道はみんなにすすめられてビールを口にしていたかもしれない。
 常識のない仙道が、アルコールで理性のたがまではずしてしまえば、何をするかわから ない。少なくとも三井は本気でそう思い、反射的に部屋から出て廊下を走り、階段を降り、 玄関ホールに飛び込むと大急ぎでバッシュをはき、寮の外に飛び出した。
 夜の闇の中、駅までの道を全速力で走る。体育会の学生寮は大学のキャンパスに近い住 宅街に建てられていて、この時間になれば人通りはほとんどない。たまにコンパ帰りの学 生たちが集団で通るくらいで、両側に民家の塀の連なる道はいつもひっそりと静まり返っ ている。その道を必死になって走っていると、前方に独特のシルエットが立っていた。
 間に合った……?
 疎らな街灯の下、それが思っていた通りの人物であることに安堵して、三井は スピードを緩めた。相手  仙道彰は笑顔で三井の方に両腕を広げた。
 何かおかしい。
 不審が芽生えたときには、彼は仙道の腕の中に飛び込んでいた。間を置かず、 きつく抱きしめられる。
「来てくれて嬉しいです」
 三井は悪罵を放とうとして、上がった息に咳き込んでしまった。
   てめえ、謀ったな。
 心の中ではぽんぽんと罵詈雑言が浮かび上がってくるのに、音を伴う言葉にならない。 そのうち抱きしめられていることの快さに、もう何もかもどうでもよくなってしまった。
「本当に……三井さんがご所望なら、やりますよ、裸踊り」
「ヤメロ」
 これから何を言ったって、脳味噌が酸欠のせいだ、と自分に言い訳しつつ、三井は口を開いた。
「……駅前でみんなに見せるより、おまえの部屋でオレだけに見せた方が良くねえ……?」
 耳元で息を呑む音がした。少しやり返せた気持ちになって、仙道の肩に埋められた三井 の顔が笑みにほころぶ。
「あー、でも踊りはいらねえから」
 言っていておかしくなってしまい、くすくす笑いが漏れてしまった。仙道は笑わなかっ たが、三井の背にまわした腕の力を緩めて言った。顔を上げる。目に映るのは、意 外に真面目な仙道の顔だった。
「三井さんの二十歳最初の時間をオレに下さい」
 ……オレの方がプレゼントか、という言葉は呑み込んだ。三井が望めば、仙道はきっと 世界征服さえ企むだろうから。
 ……いや、世界征服はオーバーか、と三井は赤面した頬を隠すように、もう一度仙道の 方に顔を伏せた。


END



 ということで、みっちゃん、

お誕生日おめでとー!!!

意味不明のいちゃいちゃですが、とりあえずHappy Birthdayということで、アップします。 これの原型は何年か前に(主に)ことぶき会方面に送った誕生祝いファクスのSSですが、 覚えているキーワードは「裸踊り」だけなので(笑)、同じような内容かどうか自信がありませ ん。でも、こんなものだったろうとは思います。 まあ、お読み捨ていただければ幸いです。


トップページへ戻る