名古屋高裁審理経過
                        
T 争点となっている核燃の開示決定通知書(行政処分)の文言
              [ゴチックの部分]


開示する法人文書の名称
1.PNC ZJ4257 88-001 Vol.1 東海・CA地域リモートセンシング調査
            (他同調査報告書4)
不開示とした部分
・不開示とした部分:調査対象地域等を具体的に示すことにつながりうる
            情報

2.JNC ZN7450 2001-001 広域調査地表調査シート
              (昭和61年度および昭和62年度)
不開示とした部分
・不開示とした部分:調査対象地区を具体的に示すことにつながりうる情報

U 名古屋地裁判決(2003年5月8日)の概略
 開示決定通知書は誰が読んでも、開示部分と不開示部分がはっきりとわかるように「一義的に明確に、特定し得るものでなければなら」ない。しかし核燃は不開示部分を「調査対象地区(又は調査対象地域等)を具体的に示すことにつながりうる情報」とした。これでは「地区」や「地域」とはどんな広がりを指すのか明確でない。「つながりうる」とは、個人個人によって受け止め方が異なる表現である。このように開示、不開示が明確でない通知書は無効である。

V 地裁判決から高裁結審まで
名古屋地裁判決 (2003年5月8日)
核燃控訴    (2003年5月21日)
控訴理由書提出 (2003年7月10日)
進行協議    (2003年9月29日) 
控訴答弁書提出 (2003年10月17日)
核燃第1準備書面提出(2003年10月28日)
原告控訴準備書面提出(2003年10月29日)
第一回口頭弁論、結審(2003年10月29日) 

====-双方の主張の概略===== 
                       論点のポイントは下線と★印
◆核燃 控訴理由書より (2003年7月10日提出)     <下線は兼松>
1.行政処分の特定の程度:「他の行政処分と識別可能な程度であることを要し、かつ、それで足りる。」
 行政処分の特定の程度は原判決のように厳格なものではなく、「他の行政処分と識別可能な程度でよい。」つまり「開示部分と不開示部分との区別ができるか否かという観点から特定の有無を」見ればよい。P.4
 そして「法に基づく部分開示決定におけると不開示部分の特定」として「情報の性質や内容を表す概念を用いることは許される」。この場合「概念が定性的なものであることから、処分内容につき解釈を要するものとなることは不可避である」。にもかかわらず、一審判決の「内容が一義的に明確」で、二義を許さない、つまり「解釈の余地を許さないというような意味で用いることになれば、情報の性質や内容を表す方法で不開示部分を特定することが困難になってしまう」。p.4
 原審判決も「特定の方法として、情報の性質や内容を表す概念をもって不開示部分を特定することが許されることは認めている」。これは判決で「内容が一義的に明確」と言う概念と矛盾する。P.5

2.情報の性質や内容を示す定性的概念で開示、不開示の部分を記載することは許される。
 「調査対象地区を具体的に示すことにつながりうる情報」、や「調査対象地域等を具体的に示すことにつながりうる情報」は、広域調査地表調査又はリモートセンシング調査の結果であり、このように書くことは合理的である。その調査方法や内容から、開示部分と不開示部分との区別が可能である。不開示部分の特定として何ら欠けるところはなく合理的である。P.5
・「『地区』及び『地域』は一定の場所的範囲を示す日常語」である。p.6 これを使って「不開示部分を記載することが許容されない」のは不合理である。
「調査対象地区」及び「調査対象地域」は「市町村や集落等をいわばまたいで存在しうる岩種、断層、地層等である。」
 調査の対象や調査者の関心は 「市町村や集落等をいわばまたいで存在しうる岩種、断層、地層等である」。それを不開示情報として「調査対象地区」及び「調査対象地域」と記載した。「調査にとって必ずしも本質ではない『市町村名』等という記載にまとめるのは、かえって不自然なのである。」 p.8
「等」は「グランドトゥルース調査の対象地域」である。「全ての不開示情報を書き下ろすことは不合理である。」「等」を用いても不開示理由の記載と併せれば「他の行政処分の識別には何らの支障も来さない。」 P.9
 リモートセンシング調査後精査のためにグランドトゥルースという地上調査が行われるという知識は、市販の書物にも容易に知りうるものなので、不開示部分の特定にあたって簡潔に記載するため「等」を用いた。p.10
 「何人にも開示請求を認める法は、開示請求者がこのような個別具体的な知識を有し得ることを前提に不開示情報の範囲を決定することを予定している」p.11

・「具体的に示すことにつながりうる情報」とは 「広域調査地表調査及びリモートセンシング調査等によって得られた結果」であり、「各調査手法や内容に応じた地質構造帯名及び地層名等の情報」であることは明らかである。p.10

◆原告 控訴答弁書より (2003年10月17日提出)
1.原判決で不特定とされた部分は、容易に特定できた。
   しかし核燃は敢えて特定していない。

核燃は行政処分として不特定であるとされた「地区」「地域」「等」「具体的につながりうる情報」について説明している。はからずもこの説明は不特定とされた概念を特定することが容易に可能であるにも関わらず敢えて特定してこなかったことを自認する結果となった。

★2.核燃主張は不合理
・本件処分は特定されていない。
核燃が主張する特定の程度は「他の行政処分と識別可能な程度であることを要し、かつ、それで足りる。」とするが、「行政処分」や「識別」の概念は不明である。
 しかし、「本件における行政処分とはあくまでも不開示(一部不開示)処分であり」処分が示す対象は「開示または不開示情報」である。「当該不開示処分を他の不開示処分と比較して、不開示情報の異同を識別できる程度に特定されているかどうか」とみなければならない。
核燃の主旨が上記の主張と同主旨であったとしても、「本件不開示処分相互でみても、他の不開示処分と比べて不開示情報の異同を識別できる程度に特定されているとは到底言えない」。

★3.「定性的な概念」という主張
核燃は「開示部分と不開示部分を示すために、情報の性質や内容を示す概念を用いることが許される」とし、「当該概念が定性的なものであることから、処分内容につき解釈を要するものとなることは不可避 」と主張する。P.3
しかし定性的な概念を用いるために処分内容が一様に定まらないのであれば、このような概念を用いずに表現せよというのが法の要請である。P.3
現実に核燃は1.で定性的概念を用いず処分内容を特定している。核燃の主張は破綻している。

★4.原審判決は常識的であり、識別可能性について
        厳格な判断をしているわけではない。

・本件は「情報の性質や内容を表現する概念」を用いることの可否をあらそうものではない。
核燃は何の留保もなく「『情報の性質や内容を表現する概念をもって不開示部分を特定することが許される』ことを自己の主張の正当化根拠としている」。
 しかし本件の問題は、「かかる概念を用いることが許されるか否かではなく、そういう概念を用いてもなお、不開示部分を特定できるかどうかという点」である。つまり「情報の性質や内容を表す概念を用いた場合に処分内容が特定できなくなる場合は、かかる概念を用いることが許されない、という結果になるにすぎない。」核燃の主張は詭弁としかいえない。
5.結語
双方とも一刻も早い審理を求める点は一致している。「もっとも迅速な方法は、控訴人が原判決を受け入れ、原判決に従って特定した新たな処分をすべきである。敢えてそれをしない「控訴人の態度は反禁言の原則にも反する」。P.4
核燃が示したように「処分内容を特定しようとすれば特定できるにもかかわらず、敢えて特定しない、という控訴人の姿勢」は「処分の実質的違法性についての論証を放棄した、とみなして」、「これを取り消す判決を下されることにも合理性があると考える。」

◆核燃 第1準備書面 (2003年10月28日提出)
1.不開示部分と開示部分との識別について
「本件各通知書の記載は、本件不開示処分相互でみても、他の不開示処分と比べて不開示情報の異同を識別できる程度に特定されているとはいえないから無効であると主張する」。しかしこの主張は「『他の行政処分との識別の可能性』の意義について誤解している」。P.2
「他の行政処分との識別の可能性」とは「ある行政処分がなされた場合に、その処分内容が他の行政処分との混同を来さないことという意味であって、他の行政処分における処分内容のとの比較において異同が識別可能であると(本件で言えば、他の不開示決定における不開示情報との比較においてその異同を識別しうる)いう意味ではない。」

2.定性的の意味について
岩波国語辞典第4版デスク版に「『定性的』とは、比ゆ的に、『質的・属性的』という意味で用いられる概念であって、『定量的』に対する概念である」と説明されている。本件もそのような比ゆ的な意味(すなわち情報の性質、属性といった意味)で用いている。
この定性的という表現は通常用いられている。法や行政機関情報公開法が不開示情報をいかに規定するかについて定性的要素、時間的要素(宇賀克也著・新情報公開法の逐条解説)を上げて論じている。

3.禁反言の原則違反との主張について
 原告が「本件不開示決定の内容それ自体の違法性について早い審理を求めるのであれば、原判決を受け入れ、原判決に従って不開示部分を特定した新たな処分をすべきであり、それをしない控訴人の態度は反禁言の原則に反する」と主張するが、控訴権を行使しているだけだ。P.4
4.その他の主張
原告は、「地区」「地域」など行政処分として不特定であるとされた概念について説明したことに対して、「あえて不開示部分を特定してこなかったことを自認する結果となっていると主張する」。
しかし「抽象化、統合化のプロセスを繰り返して同種類似の事項」をまとめて記載することもあり得る。抽象化、統合化される前の事項を列挙したことをもって敢えて特定しなかったことを自認するものではない。P.4

◆原告 控訴準備書面(2003年10月29日提出)
★1.「他の行政処分との識別の可能性」の意味について
核燃は「ある行政処分がなされた場合に、その処分内容が他の行政処分との混同を来さないこと」で足りるとする。これは「処分の内容を客観的にみて理解できるかどうか、という観点を一切考慮しない」ことになる。
しかし「行政処分は行政主体の意思表示である以上、客観的な観点(原審が定立した基準を相当と考える)からみて、意思表示内容が理解できない場合には、意思表示としては成立しない」。
 このような内容不特定の行政主体の意思表示(行政処分)が違法となることは明らかである。

★2.行政処分の特定の問題と「定性的要素を利用することが許されて
   いるかどうか」という問題を混同した主張であって、合理性は全くな
   い。



                           2004.1.27   原告 兼松秀代


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