「はぁ、なんとか間に合いましたね」

私が靴をブーツから上履きに履き替える間にカイも到着する。

「む、貴様まで逃げてきたのか。聖騎士団(注1)団長の癖に」

「だ、だって私だって悪くないし大体原因は走りながら回想なんかしてるヴェノムで・・・それに遅刻などしたら聖騎士団団長としての体面と言う物が・・・」

「・・・ふっ、まぁいいか・・・今回の収穫は貴様が人としての温かみより体面を取る冷たい男だということがわかったことだな」

「な!わ、私はその、ちょっと驚いただけでそんな冷たい人間だなんて・・・!」

カイの抗議を無視して思考に耽る。制服を見たところ、この辺りの学校の生徒ではないだろうし・・・2度と会う事も無かろう。
チャイムが響く中、教室に向けて廊下を歩いてゆく。

「しかし、見た目と言動の落差が激しい男だったな・・・ついでに上半身と下半身も」

「・・・そうですね」

ザトー・ONE 〜輝く季節へ〜
第三話 脅威再び

教室に入る頃には、廊下の先に担任の姿をも確認できる時間だった。あいも変わらずつばひろの帽子に下にズボン以外何も着ないで前を開けたコート、良くこれでPTAから追放されないものだと思う格好をしている。
・・・腰に下げた木刀も忘れてはならない要素だが。

「では」

カイが廊下側の席で鞄を置く。
私はそのまま窓側の方まで進み、友人達とニ、三声を交わし、そそくさと自分の席につく。
ふふ・・・私のビューチフルお茶会カスタムver.02.3は今日も完璧だ。
自分の机のいつもどおりの完璧さに満足していると担任・・・ジョニー教諭が教室に現れ、場が整然とする。
まぁいつまでも騒いでいればコインが跳んできて3枚溜まると漏れなく居合の餌食にされるので当然だろう。
みよ、立っていた生徒達もそそくさと席についていく。

私は何事も無いかのように机に備え付けてあるガスコンロで湯を沸かし、ジョニー教諭の話しが始まるのを待つ。
紅茶のお湯が沸くのを待つ間にカイが凄い視線を投げかけてくるがいつもの事だ。ジョニー教諭にコインを投げられなければいい。
が・・・いつもどおりなのはそこまでだった。

教室内の男達が、急にざわめき出す・・・なんだ?貴重なスカートをはいても違和感の無い本物の女でもきたのか?
私はガスコンロにかけておいてあるお湯から目を離し、教室前方に目を向け、そして、己の目を疑った。
なんと伊達男のジョニー教諭がロンダルキア台地に生息すると言うギガンテスに変わっていたのだ、

「あぁ〜静かにぃ。そんなに騒ぐもんでもないだろぅ?」

いや、騒ぐことだと思うが。む、ジョニー教諭はギガンテスの隣に居たのか。

「おいおぃ〜、そこの聖騎士団長、風雷剣を抜くなぁ〜、そこの悪男、インストールするんじゃないよまったくぅ〜。コイン、なげるぜぇ?」

あまりに臨戦態勢に入ってしまったクラス内を静める為に容赦無くコインをを投げるジョニー教諭。三枚溜まったものには容赦無くミストファイナーが叩きこまれる。
む、アクセルが飛んでいる・・・落ち着きの無い奴だ。

「んあ〜、先週の終わりにはなしたとぉりぃ、これがその転校生君だァ。どだ?なかなか〜、チャアミングだろぅ?」

思わず「だれがやねん!」というツッコミをジェスチャーで入れてしまう私。
しかし、見ると教室内の人間の9割が同じ事をしているので問題ないだろう。

「んじゃまぁ自己紹介、アッピィィ〜〜ルをどうぞぉ」

そういうギガンテスが口を開く。

「ポチョムキンだ。問題は無い」

再び教室内9割(私自身含む)が「なにがやねん!」の動きをする。
ん?そういえばあの低い重低音の声、ギガンテスのような容姿。どこかであったような気がする・・・
今朝ぶつかったあれか
カイの方を見ると、焦り気味の顔でカクカク頷いている。
しかし・・・2回目だと言うのに衝撃が薄れないとは、恐ろしい事だ・・・

「急な任・・・いや、親の転勤の都合で、こんな時期はずれの着任・・・いや、転校をする事になってしまったのだが、みなよい素養を持っているようでほっとした」

良い素養・・・?任・・・なんだ?怪しい、怪しすぎる。周りの男連中・・・とくにアクセルの警戒が強い。

「おいおぃ。そんな殺気立つんじゃねぇよ。ほらほらぁ、そこ、危ないから畳み(床板)を返そうとするんじゃねェ」

「それでは、よろしくお願いする」

ビシッ!と決めた敬礼・・・様になっているのが嫌なんだが・・・

「んで、席だが・・・そこの列が一人少ないな」

ジョニー教諭の一言と視線に戦慄が走る明らかに私のいる列に視線を向けている。
というかあからさまに私の列だけぽっかりとへこんでいる。

「あぁ〜ヴェノム。お前さん廊下に机があるから、それをお前の後ろに並べてやってくれや」

それだけ言ってジョニー教諭は私の返事も聞かずにHRを締めくくりにかかる。

「じゃあお前等あんま質問責めにしないようにな。いじょ」

そして帽子のつばをくいっと上げるとそのままニヒルに退場する
出ていったとたん疑惑と猜疑を一面に塗りたくった顔のクラスメート達がギガンテスの周りに集まってくる。

「・・・ふぅぅぅ〜〜〜・・・」

私はそれを横目になんともやりきれない溜め息をつきながら、ギガンテスのため。
何より転校生に不親切にした事によるコインの蓄積を未然に防ぐ為に廊下に出ていく。

教室の外には何故か背もたれの無いイスが鉄板製の机の上に乗っていた・・・嫌がらせだろうか?

「あ、ヴェノム私も手伝いますよ」 ありがたいカイのお言葉、私一人では運ぼうとして挫ける以前に腰が逝かれるだろう。
・・・二人でもきついのだが。

「・・・カイ、すまないが少し待っててくれないか?」

「どうしたんですか?」

そのままギガンテスの机を最後尾に運ばずに、私の机を最後列に移動させ、そのまま私の机の前に鉄板机を置く。

「まったく、勝手に位置を変えて・・・」

「あんな鉄巨人にに後ろにいられたらいつか叩き潰されそうだからな。トマトのように」

「う、それはそうですがジョニー先生はヴェノムの後ろにポチョムキンさんの席をつけろと言ったじゃ無いですか」

「・・・大丈夫、ジョニー教諭もわかってくれるさ・・・」

「そうですかね・・・?」

もともとジョニー教諭はおおらかな人なのだ、これくらいなら大丈夫だろう。
それにいざとなったら「転校生をいきなり隅に追いやるような云々」といって丸め込める説得できるだろう。

「で、ヴェノムはどう思うんですか?」

黒板の前に出来た人だかりを見てカイが言う。

「・・・さぁな。しかし朝見たときから怪しい男だとは思っている」

「まさか何処かの国の秘密工作員・・・まさかギア?」

「Mさかそれはないだろう、ソル=悪男ではあるまいし」

教室の何処かから盛大に机に頭を叩きつけるような音が聞こえたが、このさい気にしない事にしよう。

「今何かさりげなくドスゴイ事を言いませんでしたか?」

「なんのことだ?」

「・・・いえ、いいです。どうせ貴方お得意のズッコケジョークでしょうから」

カイは溜め息をついて自分の席に戻って行ってしまった。
そして私は1時間目の始まりのチャイムを聞く・・・

(*1)たぶん、町の青年団みたいなもんでしょう、多分・・・

さ、ささささ、さぁ帰ろう!まだ僕達にロンダルキア台地は荷が重いヨ!