門を出て飛び出した私達は速度を緩めずに走りつづける。
ん、このペースならば何とか間に合うだろう。
たかたかたかたか・・・
うむ、すぐ後ろにカイもついてきている。
しかしこういう朝の光景にもなれてきてしまっているが、よくよく考えてみると不思議なものだ。
何故?私のはこんなすべるようにして無音で移動できるのか?




ザトー・ONE 〜輝く季節へ〜 第二話 学校への道すがら




まぁ、ソレは置いておいて、だ。それ以外にも一つでも何かが違っていればここにはいたっていなかった、と言う奇妙な感覚だ。
例えば、今私とカイは仲の良い幼馴染だが・・・。
もし世界自体が違っていたら私は闇の組織の暗殺者でカイはどこぞの騎士団の団長、などということもあったかもしれないわけだ。
その事を考えると、非常に哲学的な気持ちに・・・。
いや、今はそんな思考の海に浸っている場合ではないな。真面目に学校へ行く事を考えよう。
だが、そう簡単に振り払えるものでもない、な。
身寄りを失い今の謎のボランティア医師ファウスト先生のところに引き取られた時、私は7歳だった。
友達も居ない。
知った場所も無い。
私は幼く、町は言葉の通じない異国だった。だから私は今も愛用のこのキューだけが友だったわけだが・・・。
そこに現れたのが、このカイ・キスクだった。




コン・・・!
いつものように部屋でひとしきりナインボールをたしなんだ後、お茶の時間にしようとした時、窓ガラスが音を立てた。
コン・・・!
なんだ・・・?
これは挑発だろうか?
にしても、ここは二階だぞ・・・?石でもぶつけているのか。
コン・・・!
また、鳴った。悪戯か・・・?よし、次が来たら撃ち返そう窓が割れてはかなわないからな。
撃ち返すつもりで外から見えない位置に張りつく。
しかし、その後の投石が中々来ない・・・読まれているのか?
恐ろしい相手だ・・・、ここから離れたらまた投石を始めるのだろう。かなりの手練に違いない油断できんな・・・。
このままでは状況が膠着してしまう。この状況を動かそうと私は窓を開け放った。
すると・・・。
ゴギュッ
「ぬぉあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
眉間に大きな石、いや、これはもう岩だ。が当たり。激しい衝撃に身体がきりもみ回転をしながら宙を舞う。
か、かなりきいたぞ、いまのは・・・。
「し、しまった!!やりすぎ・・・ですかね・・・。今のは。」
下からそんな焦った声が聞こえてくる。当然だろう普通は死んでいる。
「貴様!!何をする!!そのいかにも「私は聖騎士団の団長でティーカップを集めています」と言う化けの皮を剥いでやる!!」
わたしは少し感情的になり、痛む額を押さえながら立ちあがり、怒鳴りつける。
「あ、あの。当てるつもりなんか無かったですよ・・・。」
真下、塀のすぐ外に立つ男の子がこっちを見上げて弁解す・・・、私はその瞬間。何故こんなにこの町に馴染まなかったのかを悟った。
何故男の子がリボン着けてスカートなぞ履いている?
まぁ、そんなことより、その男の子は弁解をした。
微かに見知った顔・・・確か同じクラスだったような・・・。無意識のうちに頭の中から締め出していたのかもしれんな。
そんな彼に向かって更に糾弾を続ける
「今のは、とても効いたぞ・・・。」
「すいません!謝罪します!!」
「悪質な暗殺未遂だな。」
「ただ、呼んでただけなんです!いっしょにあそぼうって・・・、本当です!ただのお誘いなんです!」
「嘘をつくな!!」
「嘘じゃありません!」
「明日からナインボ−ルで巻き上げてやるからな!覚悟しておけっ!!」
「そんあ、嘘じゃないのに・・・って。巻き上げる!?賭博行為をするつもりですか?!」




それがすぐ後ろをたかたかと駆けるカイだった。
あの日以来、私はカイから巻き上げつづけようとした。

カイはそんな甘い性格ではなかった。はっきり、きっぱりと断られ逆にナインボール禁止例を出されてしまった・・・。
そこで他の手で追い詰めようとしたのだ・・・。
スカートめくり−奴は男だ、やってもこちらの気分が悪くなるのでバツ。
靴増やし−靴を隠すのではなく増やしてやるのだが・・・。カイは難無くもとの持ち主に返してしかも持ち主からの好感度を上げていた。よってバツ。
必殺給食ちゃぶ台返し−私はこれで奴が手練だと再確認させられた。実行しようとすると読んでいるかのように机を押さえに来る。隙を狙っても信じられない速さで机を押さえる。よってバツ。
・・・今思うと、もっとあくどい事をしても良かったような気もするが・・・。
結局、紅茶という接点で仲が良くなってしまった。結構、安っぽい仲だな・・・。
まぁ、そのおかげで私も落ちついた紅茶友達を手に入れられたのだ。それはそれでよしとしようか。
「ヴェノム、前!!」
などと思うのだが・・・。
ん?私が「ヴェノム、前!!」と思うのか・・・?まぁそう言う時も・・・無いな。
「ぬぅん!!」
「ぬぅうぉああぁぁ!!」
 ズゴォ・・・・ッ!!
衝突。
他に表現の仕様はないのだが・・・。何故私は宙を待っているのか?さっきそんな昔を思い出したからか?
対して相手は転がりもせずにその姿勢のままでとまっている。
「・・・む、雀か・・・。」
等と言っていると、止まっていた衝突の相手が黄色い制服に包まれた手を伸ばし、私の身体をわしづかみにする。
「なにか、嫌な予感がするんだが・・・。」
「ヒィィィトッ!エクステンド!!」
悪い予感は、的中した。
「ふぅ、危なかったな。もう少しで車道に飛び出るところだったぞ。」
制服の腕の部分から何故か出てくる空薬きょうを排出しながら、上半身と下半身のバランスが悪い男が声をかけてくる。
・・・・・・・・・

貴様もスカートか。
そんな私の心の中と身体の火傷を気にする様子も無く、柔らかい、優しげな視線を投げかけてくる。
「ん、そこの君は彼の連れかな?済まなかったな。不注意だった。」
その男が私の後ろに居るカイに一礼する。
「え・・・、あ・・・いや・・・。ヴェノムの方も不注意でしたし・・・。」
どう考えても最後の「ヒィィィトッ!エクステンド!!」は不要な気がするのだが・・・。
「何!?お前が7歳の時に私に岩を投げつけるなどという思い出を作るからそっちに気を取られてぶつかったんだろう!!」
「そんなの今の私が知るわけ無いじゃ無いですか!!」
「ま、まぁ二人ともそんな喧嘩をせずとも・・・。」
「まったく、言い訳をするならもう少しまともな言い訳を考えなさい!!」
「ぬ・・・っ!?足をいためてしまったようだな・・・。急いでいるのだが・・・。」
「すまん、私も急いでいるのだ。カイ、後を頼む。」
「私だって急いでますよ!!なにを寝言いってるんですか、貴方は。」
私はそんな言葉は無視して学校へと駆け出した。
「ま、待ちなさい!!ヴェノム!!」
校門を一気に駆けぬけ、下駄箱まで直行する。





はい、第二話・・・。更新遅いデスネ(死)多分、続く。
焚書にしてここを立ち去る。