『赤い人の流れ星』
(元ネタ:戯言シリーズ)





 日暮れ時。
 出かけようとして骨董アパートのぼくの部屋の扉を開けると、

「あ」
「よう」

 眼に飛び込んできたのは、全身をこれでもかとばかりに覆う真紅。
 ぼくを訪ねてきたのか部屋の前に立っていた哀川さんと、ばったり会ってしまった。

「こんばんわ哀川さん」
「名字で呼ぶなっつってんだろ。あたしを名字で呼ぶのは敵だけだ」
「す、すみません潤さん」

 射殺すような視線に耐えかねて、即座に言い直す。
 ……怖かった。
 というか、この人なら実際に視線で殺しそうだ。
 比喩じゃなく、眼から光線でも出して。

「おし。んで? 沙咲に用があってこの近くに来ててな。折角夕食時だから飯でも一緒にと来てやってみたんだが……出かけるところか?」
「あ、はい。姫ちゃんに誘われましてね。流星を観に」

 今日は、何とかっていう流星群が降る日らしい。
 姫ちゃんが高校でそんな話を聞いてきたらしく、帰宅するなりぼくの部屋におしかけてきた。
 それで、観に行きたいって見事な駄々をこねてくれた。
 ぼく自身はそんなのわざわざ観ようとは思わなかったけど彼女一人を夜に外出させるのはどうかと思ったし、

『ししょー。流れ星観に行きましょう。高いところがいいです。やー! 行きたい、いきたいんですー! 師匠と一緒にイきたいんですよーー! 今夜だけでいいですからーー!』

 などと終盤聞きようによっては危険な台詞を吐いてくれやがったので、黙らせるためにも了承するしかなかった。
 ……いや、後半の文字変換はぼくの主観が多分に入っているんだけど。
 で、その後に、

『じゃあ師匠の都合がいい時間になったら呼びに来てください。姫ちゃんはいつでもいいですから』

 などという会話が交わされ、今に至る。

「……というわけで、ぼくは保護者として付き添いですよ」

 溜息混じりに経緯を語って見せた。
 実際そこまで嫌じゃないんだけど、まあ彼女に振り回されたことのポーズとして。
 一方、ぼくの話を聞いた哀川さんは、というと。
 満面の、という言葉がこれ以上なく似合うほどに、口元をニンマリと歪ませて、

「そっかそっか。あいつもそんな普通の会話して、普通のワガママ言うようになったか」

 なんて言って、笑った。
 ものすごく、楽しそうに。





「しかし、流れ星か」

 で、そんないい顔をしていた哀川さんは、今度は口元をニイィと歪ませたかと思うと、

「よし、あたしも見せてやるよ。それって、あれだろ、」








『虎眼流に流れ星なる秘剣あり

 掛川城主松平隠岐守定勝をして 「神妙古今に比類なし」 と言わしめたり』








「ってやつだろ」
「いや違いますから。それ星流れですから。柱斬りつけようとするな!」

 懐から取り出したナイフで変な構えを取る哀川さんを見て、ぼくは投げやりに突っ込むことしかできなかった。
 ホント漫画好きだなこの人は。





「ヒートホーク持って3倍の速さで動いてやってもいいぞ」
「あんた茶化すことしか出来ないのか」


<了>



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