ワークステーション

初めてワークステーションに触ったのは、大学の専門課程での実験だった。実験といっても電子工学科だったので、怪しげな実験室で摩訶不思議な薬品を作ったりとかはやらない。せいぜい電流やら電圧やら磁気やらを測定する程度だ。そのときやったのはUnixワークステーションを使ってCのライブラリルーチンを作成する「実験」と68000アセンブリ言語で同じようなものを作る「実験」だった。といってもC言語や68000アセンブリ言語について詳細な解説を受けた後で行う演習、というようなものではない。Cもアセンブリも何も知らない状態で、いきなり課題をもらって、自分で文法から勉強してプログラムを作るという、「頑張って何とかしなさい」というやり方だった。

その頃はCの本といえば共立出版のK&Rの初版本とASCIIのHancock&Kriegerの"The C Primer"しかなかった。68000のアセンブリの本はASCIIからKing&Knightの"Programming the M68000"が出ていた。それらを全部買って、がんがん読んで、何とかプログラムを作っていった。それまでに講義でPascalについてはある程度プログラムが書けるようになっていたから、そういうやり方でも何とかなったが、初めてプログラミングを勉強する場合にはあまり効果的な方法ではな無かっただろう。

それまで大型機の端末か、98しか触ったことが無かったので、ワークステーションは色々と目新しい処があった。端末(VT100だ!)のキーボードはこりっこりっというなんとも言えないクリック音が鳴る(そのころ98はくぁ~んというスカみたいな音だった)し、スクリーンエディタのviが使えた(大型のは簡易的なスクリーンエディタしかなかった)。これがワークステーションというものか、と感嘆した(少し言い過ぎ)。

MicrosoftがWindows NTをWorkstationとServerという2ラインに分けて販売するようになったので、ワークステーションは個人用のPC、サーバは共有するコンピュータというイメージがある人は多いだろうが、もともとワークステーションというのはグラフィック端末をもった小型の、しかしマルチユーザで使用できるコンピュータの総称であった。Unix系のOSを搭載している場合が多かったので、Unixワークステーション==ワークステーションという時期もあった。主なベンダはSun Microsystems、Appolo(HPに買収されてしまった)、SGIといったあたり。

私が最初に触ったのはそうしたグラフィック端末は持っていなかったのだが、Unixが動いて、Cコンパイラがさくさく動く(PC用のCコンパイラはまだLattice Cとかだし、ハードディスクがなかったし)環境はとっても素敵に感じた。その後配属された研究室は電子顕微鏡の講座だったのだが、顕微鏡制御用のUnixワークステーションを使えたので、色々遊んでいた。

大学院に進むと制御工学の講座だったのでワークステーションを使う機会は減った。コンピュータといえばもっぱら98でワープロを使うくらいになっていた。そうこうするうちに就職先を考えなければならない時期になっていた。当時バブルの絶頂期だったので技術系の学生は引く手あまたの状態だった。電気関連のメーカーがよかろうという程度で考えていたが、ワークステーションを作っているという会社があったので、希望したらあっさり決まった。


目次  談話室  PoisonSoft