俵藤太物語
10、 桔梗(ききょう)
亀戸香取神社に秘められた驚愕の秘密、それは…
すぐ隣にある香取小学校に、作者が通って
いたんです。わーい\(^o^)/
香取神社は、作者の通学路でした。
まさか、自分の書く物語に登場するとは…
というか、こんなに古かったなんて、知りませんでした。
よく参道、というか境内で野球をしていましたが(笑)、
1度も怒られたことはありません。
子供たちの成長を温かく見守っているような、良い神社でした。
ふーん、俵藤太が参篭したんですか…
さらにもう1つ、驚くべき秘密(笑)が…
香取神社に隣接する西側エリア、ゴチャゴチャと家が
立ち並んで車も通れないくらいの、ちょっとビンボー
たらしいエリアですが(住んでる人、ゴメン)…
友達の家もあって、通学路だし、作者には
思い出深いところです。
実はこの辺り、江戸時代には呉服商・伊勢屋彦右衛門の
別荘「清香庵」があったところで、暴れん坊将軍・吉宗が
鷹狩の途中に立ち寄った際、庭の梅を賞賛。
「亀戸梅屋敷」として一躍有名になり、歌川広重が
「名所江戸百景」の1つに取り上げ…
そうです、炎の画家ゴッホが模写したことで有名な
「亀戸梅屋敷」、こんなところにあったのです!
大人になってから、このことを知った作者はショックでしたね。
亀戸とゴッホに、つながりがあったとは…
そういえば亀戸天神も、モネの「睡蓮」の庭の
元ネタになっていましたが…
なかなか、あなどれない秘密をもった町です、亀戸。
(さらにもう1つ、とてつもない秘密がありますが、
それは次章「将門記」のラストで)
香取小学校の先生方は、生徒にこういうことを教えた方がいいよ。
そういえば伊藤左千夫の墓も、近くの普門院にありますね。
普門院、作者の生まれた家の近所ですよ。
ここは、境内で遊んでると怒られましたね。
このすぐ近くで、習字とか算盤、習ってました。
伊藤左千夫、「野菊の墓」の作者ですよ。
「民さんは、野菊のような人だ」の、アレですよ。
松田聖子のおデコですよ。
作者の出身校、都立城東高校には
伊藤左千夫の歌碑があります。
3年間、1度も見たことはありませんが、Wikiに
書いてあるのだから、きっとある。
都立城東高校、都立なのに2回も甲子園に出場した学校です。
でも私立校じゃないから予算がなくて、甲子園までの旅費を
石原都知事が特別会計で、捻出してくださったのです。
(ちなみに城東高校の所在地は亀戸ではなく、江東区大島)
甲子園の話が出たついでに、ベースボールを「累球」と訳さず、
「野球」としたのは、俳人の正岡子規だそうです。
本名が「正岡升(のぼる)」なので、「のぼる」
→「のぼーる」→「野ぼーる」→「野球」…
そして伊藤左千夫は、正岡子規の弟子なのです。
亀戸香取神社はスポーツの神であり、だから作者が境内で
野球をしても、怒られなかったのでしょう…
なんか話が戻ってきた。
あー、伊藤左千夫の歌碑、なんか思い出した。
自転車置き場の近くにあった、アレだ…
作者は3年間、自転車通学をしていたのですが、
ほとんど目に入ってなかったすね。
なんで野球の話になったのでしょう、やはりWBAの影響か。
正岡子規に見せてやりたかったですね、WBA。
ついでにもう1つ、香取神社前の表参道は、
大門通り商店街になっていまして、そこに
サンケイス−パーというお店があります。
ここでなんと、賞味期限の切れた商品を格安で販売している
というビックリニュースを、こないだテレビで見ました。
陳列してあるのは全て、店員さんが「毒見」したものだそうで、
「期限切れ」と明示してあるので、法的には問題ないそうです。
けど… 2日や3日の超過ならともかく、1年も2年も
期限をオーバーした食品ってwww
サンケイス−パーの思い出。
作者の小学校の頃、「町のお店で、いろいろな物の
物価を調べてみよう」という宿題が出まして。
作者は、サンケイのおじさんに、いろいろと
インタビュー?をしていたら、
「あのオバサンが、物の値段に詳しいよ。
店員より詳しいから、聞いてごらん」
と言われまして、買い物中のオバサンの方へ、駆けよった。
「すみません。商品の値段について、教えてください」
振り向いたオバサンは、作者の母親でした… (完)
あのサンケイス−パーが、期限切れ商品をね… はあ〜
なんか、だいぶ脱線してしまいましたが、俵藤太とゴッホと
モッタイナイ商品が交錯する場所、それが亀戸香取神社なのだ。
一昼夜、社殿に籠もった翌朝、いまだ何ら神のお告げも
授からぬまま、藤太は神社を後にする…
胸に焦燥感を抱いて。
表参道を歩いていると、木立の中に、女の姿があった。
ちょうど現在、サンケイスーパーがある辺りだろうか。
女は、藤太の顔を見て、何やら動揺しているようだ。
「あの… 藤原秀郷さまでしょうか… わたくし」
女はベールのついた市女笠を取って、顔をさらした。
「将門の側に仕える、桔梗(ききょう)と申します。
ありていに言えば… 妾(めかけ)です」
その美しい顔を見て、藤太は珍しく声が上ずった。
「お、お前さん…」
細面の凛とした、知的で気品のある顔立ち。
右目だけ、深い湖のような群青色をたたえるオッド・アイ。
「浅井!! 竹生島の浅井姫ではないか!?
いや、浅井はとうに死んだはず…」
女は安心したように、かすかな笑みを浮かべ、
「あなたも私に見覚えがあるのですか? ではやはり、
前世で私は、あなたにお会いしている…
あなたのお姿を見て、ひどく懐かしい思いがいたしました」
「浅井の生まれ変わりか… これはもしかして
香取の神が引き会わせてくれたかな」
「そうかもしれません… 私は、あなたを追って
ここまで参りました」
将門の愛人・桔梗は、決意を秘めた表情で、
「あなたさまを見こんで、お願いがございます…
我が主、将門を討っていただきたい!!」
「ほう…? もとより、そのつもりだが」
「ただ戦っても、勝てる相手ではありますまい…
将門の弱点を知っておいででしょうか?」
この女、どこまで本気だろうか…?
「弱点か… まず、目だな」
桔梗の目に、哀れむような色が浮かぶ。
「百足の目を射抜いた、あなたの武勇伝… よく存じております。
しかし、だからこそ将門は対策を講じております…
影武者も、その1つ」
「ふむ」
「そもそも、目を射抜くなどという奇跡が再現できるとしても、
瞼を閉じてしまえば、そこまでです。目とちがい、瞼は
まちがいなく鉄と化しております。
それに、今の将門には目が1つしかないのですよ!
あなたも、目を狙うのは難しいと思えばこそ、ここまで来て
参篭し、神の助けを求めておられるのでは?」
全て、お見通しのようだ。
「では目の他に、弱点があるというのか?
鋼鉄に変化(へんげ)しない部位が?」
「あります。将門は、私の前で、鉄甲護身の術を見せて
くれました。この術があれば、決して戦で死ぬことはないと、
自慢しながら… その時です」
桔梗は、見たという。
全身が黒い鉄と化した将門の、右のこめかみの辺り、
そこだけ薄い茶色で、人肌のままのようだった…
その部分の面積は、500円玉くらい。
「将門はもともと、右のこめかみがグリグリ動くクセがありました。
そのせいでしょうか、鋼鉄化が不完全なのです…」
「こめかみか…!!」
藤太は、うめいた。
小さいターゲットだ、しかし、目と比べれば
4倍以上のサイズがある。
その上、相手はそこが弱点だという認識がない。
猿丸がいなくとも、なんとかなるかもしれない…
それに、本物の将門には、「こめかみがグリグリ
と動くクセ」があるのだ。
この情報は、影武者の中から本物を選別するのに、
このうえない助けとなるだろう。
まさに桔梗と会えたのは、神のお引き会わせ、
参篭した甲斐はじゅうぶんあった。
「礼を言うぜ、桔梗さん。だが、なぜ… 将門を討ちたいのだ?」
群青色のオッド・アイから、涙がひとすじ、頬を伝う。
「今の将門は… 私の知っている「お館さま」では、ありません…
別の人間に、体を乗っ取られてしまったのです!!」
「確かに… 俺も将門とはちがう、別人のように感じた。
だが誰が一体、将門の体を?」
「刀鍛冶の天国(あまくに)です!!」
桔梗は天国について、知っていることを話した。
彼の遺作の刀を鑑賞していた将門が倒れ、翌朝に
片目片足となっていたことも…
(天神記(四)「天神縁起」参照)
「あの刀には、天国の怨念がこもっていたにちがいありません…
あんなにお世話をして下さった、お館さまに
祟りをなすなんて、許せない!!」
「刀の毒気にあてられて将門が倒れ、その隙に
天国の霊が体を乗っ取った…」
そんなことがあり得るのだろうか、藤太は疑わしく思った。
だが敵が将門だろうと、天国だろうと、
討たねばならぬことに変わりはない。
「そんなことよりお前さん、将門のところには、もう
戻らないほうがいい… 俺のところに来い」
桔梗の返事を聞くまでもなく、草むらに
押し倒している藤太であった。
30年近く前の、浅井との一夜が思い出される。
女に心を奪われたことなど、ほとんどない藤太だが、浅井だけは
いつまでも忘れられない、思い出の女だった。
「私の全てを、差し上げます… だから、必ず将門を討って…」
愛する男の仇を討つため、他の男に体を差し出し、
愛する男を討てと懇願する女…
両手で顔を覆い、泣いている桔梗だが、ふと思い立って
藤太が乳首を噛んでみる。
やはり、昂ってきた… 生まれ変わっても、
この癖は変わらないようだ。
佐野の館へ帰る途中、桔梗は藤太の前から消え去った。
「また逃げられたか… 生まれ変わっても、
俺のことが嫌いなようだ」
苦い笑みを浮かべる藤太であった。
現在の住所で言うと茨城県取手市岡、ここに将門が
桔梗のために建てた館、「旭御殿」がある。
将門への未練を断ち切れない桔梗は、愚かにも
ここへ戻ってきたのだが…
意外な人物が、彼女を待ち受けていた。
「桔梗… あんた、俵藤太と会っていたそうじゃないか」
身長170センチといえば、この時代では大女である。
が、たおやかでスレンダーな肢体は、
ごつい印象をまったく与えない。
長い髪、鼻筋の通ったモデルのような顔立ち、
人間味のある大きな口元。
将門の北の方(正妻)、辰子(たつこ)であった。
「き、北の方さま… 私は、そのような者は…」
平手で、桔梗の頬を張り飛ばす。
いつもは優しい辰子の瞳に、静かな怒りが燃えていた。
「藤太に何を話した? なぜ… お館さまを裏切った?」
辰子は、従者から刀を受け取ると、鞘を抜き払う。
「私は、お前を憎いと思ったことは、これまで1度もない。
お前を、妹のように思っていた… それなのに…
大恩あるお館さまに対するこの仕打ち、絶対に許せない」
「お館さまじゃない!! あれは天国です!!
辰子さま、目を覚まして…」
これが、最後の言葉だった。
胸に突き立った刃を、信じられないような眼差しで見つめる桔梗。
正妻と妾、という関係ながら、実の姉妹のように
仲が良かった2人…
だが待っていたのは、悲劇的な運命だった。
崩れ折れる桔梗を見下ろす、辰子の
気丈な瞳から、涙があふれた。
「もし生まれ変われるのなら、次の世では、ほんとうの姉妹に…」
遺体に背を向け、
「丁重に葬ってあげなさい」
従者に命じて、歩き去る。