将門記(二)





12、 ちょwww おまwwwww




仁和2年(西暦886年)となった。

1月2日、16才の藤原時平が元服。

1月16日、菅原道真は讃岐守
(さぬきのかみ)に任命される。
都を離れることは悲しいが、関白・基経が
送別会をもうけてくれる。

3月18日、「スカトロ事件」の主役、平中こと
平良文(たいら の よしふみ)生まれる。
竹生島の浅井姫も、この年に生まれる。



久々に廣峯山へと戻ってきた、辟邪の残り3人。
1人残って監視していた天刑星の姿がない。
神社では、社殿の復興が始まっていた。
「天刑星が… 殺られた…」

霊感の鋭い乾闥婆が、真っ先に気づいた… 
が、他の2人にはピンと来ない。
「やられた、とはどういうことだ?」
「冗談がすぎるぞ」

まさか、寿命以外で辟邪の神が
死ぬなんて、ありえないことだ。
「神、といっても特殊な能力をもった人間に
すぎない… それを忘れていた…
単独行動をさせるべきではなかった…」

沈痛な顔でうつむく乾闥婆、神虫は膝をついて号泣した。
鍾馗は、拳を握りしめ、
「どうやったら天刑星を、あの化物を殺せる? 
…そうか、弓か? いや、奴のヌメヌメした肌は、
矢を弾くはずだ… 唯一考えられるのは火責めか…」

乾闥婆は12個の骨のかけらを取り出し、
サイコロのように振って、占いを始める。
「火も矢も使っていない… 素手だ… 
相手の姿はまったく浮かび上がってこないが、
スサノオ以外にないだろう… 慢心、おごりたかぶり… 
我らは奴を、甘く見ていた… もう決して、我らは
別行動をしてはならぬ… 3人の力を合わせるのだ…」

鍾馗のギョロッとしたマナコが、復讐の炎に燃えている。
「天刑星は、子孫を残すことなく逝った… 
辟邪の神・天刑星の技は、ここで絶える…
だが、この仇は必ず討つ。スサノオがいかなる魔物で
あろうとも、生き物である以上、「生命の経文(DNA)」を
もっているはず。そして経文は、俺の魔眼で必ず
破壊できる。これを防ぐ手段はない… 
そして経文の謎は、いかなる者にも決して解けない」


この自信に満ちた鍾馗の言葉は、単なる虚勢ではない。
スサノオはあれ以来、何度も天刑星の脳から
吸い上げた記憶をリプレイしていたが、鍾馗の
技だけは、どうしても原理がわからない。
たびたび鍾馗が口にする、「経文」
という言葉の意味も不明だ。

もし今の状態で戦えば、天刑星の
ように簡単にはいかないだろう。
それどころか、真剣に命のやり取りをすることになる。
今は、戦いを避けねばならない… 

「若い頃は、死ぬことなんか怖くなかったのにな… 
自分より強い相手にも、平気で
ぶつかっていったもんだぜ…
長生きすればするほど、命って
やつは、惜しくなってきやがる」
ゴロリと横になって、スサノオはつぶやいた。

長年のパートナーである魔風にとっても、
スサノオがこれほど敵に用心している姿は、
(月と星を別にすれば…)
数百年ぶりに見るかもしれない。
「1人ずつ相手にするならば、策が
あるはずだ。手を貸しましょう」
「よせやい、そこまで落ちぶれちゃいねーよ」



かつて源道範という武士であった、
妙齢の美女。(ちんちん付き)
仮に道子と呼ぶが、男に戻れなく
なった身の上を嘆いて数年、

「あ、そうだ。珍宝先生にたのんで、ちんちんを
取ってもらえばいいんだわ」
ようやく、そのことに気づいた。

さっそく、かつて修行した懐かしい信濃の山中へ。
だが、郡司の館は… ハエの音、腐臭… 
累々と転がる、使用人たちの死骸…
反吐を吐いたり、液状の便や血尿をもらしたり… 
まさに、地獄絵図であった。

「これは一体… 何があったというの!?」
珍宝もまた、土間で大の字に死んでいた… 
ガリガリに痩せ細って。
(疫病だろうか…?)

「道範さま… もしや、道範さまではありませんか…」
「え… あなたは… 奥方さま?」

美しかった奥方は、今は筵(むしろ)を頭から
すっぽり被り、イザリのように這いずってくる。
「来ないで! 見ないでくださいまし… 
私も、まもなく死にます」
「赤痢か何かでしょうか? 医者をすぐに…」
「いえ、全てはあいつらが… あの恐ろしい男たちが…」


その3人組は嵐の夜、突然現れたという。
「お前も日本に転生しておったか、
牛角山のGODよ… これは好都合」
「何のことやらわかりませんが、この私に御用ですかな?」
「お前の前世に用があるのだ」

「前世でお前は、スサノオと戦って殺された。
その時、疫病神の称号… 日本でいう牛頭天王
の称号を、スサノオに奪われたのだ」
「スサノオがどんな技を使うのか、それを知りたい… 
逆らえば殺す。大人しくしてろ」
鍾馗が人差し指で、珍宝の額に触れると… 
たちまち白目をむき、失神。

乾闥婆がろうそくを灯し、呪符を並べて、
「前世帰り」の呪文を唱える。
「よし… このろうそくが消えるまでの間、前世を
思い出しているはず… たのむぞ、神虫」

神虫が珍宝の下着を脱がし、尻に頭を押しつけると…
「フウウウゥゥム!!」
ぐりぐりと回転しながら、肛門から体内へと潜りこんでいく!

珍宝の腹が、異様に膨れ上がり… 
神虫は巨大な寄生虫となって、珍宝の脳にアクセス。
「見える… 八王子が取り囲んだ… 
うお… ウオオオオォォッ こんな…」

かつてGODと八王子を血祭りにした
凄惨な戦いが、神虫の眼前に。
やがて… 珍宝の肛門から「排泄」され、神虫が出てきた。
「なんと凄まじい… 後で詳しく説明しよう」

「必要な情報は手に入れた… 
さてと、こいつらはどうするね?」
「今は疫病神でもなんでもない、無害な男… 
だが、前世での悪行は許しがたい」

「家族、召使、まとめて地獄送りだな… 俺がやろう」
いきなり神虫が、土間に脱糞した… 
まさに、山のような大便。

人間の場合、その腸内に100兆匹
以上の菌が棲んでいるという。
大腸菌やビフィズス菌など100種類以上いるらしいが、
その種類の内訳は、個人によって異なるようだ。
人の腸内は、それだけで1つの宇宙といえる。

神虫はこれらの腸内細菌や寄生虫を、
意のままに操ることができる。
訓練して得た能力ではなく、先祖代々
受け継ぐ、生まれつきもった力。

神虫の大便からは、赤い糸のような寄生虫が
無数に、ニョロニョロと這い出す。
それぞれが数10億もの菌を搭載した、
「空母」ともいえる寄生虫だ。

これが使用人や奥方、そして意識が戻りつつ
ある珍宝の、口や鼻からスルスルと…
(この他に、強力な屁によって腸内細菌を直接、
相手の体内に送りこむ方法もある。)

体内に入りこんだ寄生虫からは、特殊な進化を遂げた
細菌の軍団が、いっせいに飛び立つ。
神虫のテレパシーによって動くこれらの菌は、
時に天使であり、時に悪魔であった。

病人を救う時は、善玉のビフィズス菌が主役と
なって、腸内の環境を整え、たまっていた宿便と
ともに病原菌を排出させ、健康を回復させる。

だが、もちろん今は悪魔… 悪玉の
大腸菌が、胃や腸を激しく衰弱させ…
感染者は嘔吐・下痢が止まらなくなり、
脱水症状を起こして死ぬ。
たちまち、郡司の館は、この世の地獄となった。

「お… お前たち… 何の恨みが
あって、こんな非道な真似を…」
死にゆく珍宝は、最後の力をふり絞り、問いただす。

「我らの怒りは、理不尽な災いに泣く民の怒り。
世に災いをまく者は、生まれ変わっても許さない… 
また来世でも殺してやる」

珍宝の唇が、かすかにニンマリと…
「これ、なーんだ」
その手には、3本の松茸が。
ブチィッ!! 思いきり、その3本をねじ切る珍宝… 
そして、息絶えた。

辟邪の3人は、ハッとして股間を探ってみる。
「あれ?」
「ない… アッー!!」
「おのれ、この下郎がッ…」
真っ赤になって怒っても、もう後の祭り。


「先生… やるなあ…」
話を聞き終わって、道子はつぶやいた。
「お願いです、道範さま… 鳴神上人という方を探して…
鳴神さまなら、きっと私たちの仇を討ってくださる…」

「了解しました! 必ずやこの仇を…」
動かなくなった奥方に、道子は手を合わせる。
とりあえず、当面の人生の目的ができた… 
道子は鳴神を求め、旅に出る。



仁和3年(西暦887年)となった。

次の天皇の候補が決まっていないと
いうのに、光孝帝の容態が悪化。
第7皇子の定省(さだむ)は、「源」の姓を賜って
臣籍降下していたが、8月25日、急きょ皇族に
復帰させ、26日、皇太子とする。
直後、帝は崩御。

定省親王が践祚(せんそ)して、第59代・宇多天皇となる。
(即位は11月7日)
12月(西暦では888年1月)には、即位した
ばかりの帝に、第4皇子が誕生。
後の中務卿・敦慶(あつよし)、歌人・伊勢の
最後の恋人となる人物。

藤原基経を関白に任命する文書に、「阿衡(あこう)」
という言葉が書かれていたため、
「引退して、名ばかりの名誉職につけってことですか」
激怒した基経は、職務をボイコット。
日本の政治は麻痺状態となった。

この時、「阿衡」という言葉を使って文書を作成した
学者が、橘広相(たちばな の ひろみ)。
後に、菅原道真の操る死霊軍団の一員となる。
また、「阿衡っていうのは、名ばかりの名誉職ですよ」と、
基経にチクった文章博士が、藤原佐世(すけよ)、
後に「久遠の民」のメンバーとなる。



都の大路を、馬の群れが暴れまわっている。
その数は30頭以上、いずれも毛並みのいい駿馬たち。
帝への抗議の意味で、基経が邸から放ったものだった。
関白の威を恐れ、人々は誰も手を出せない。

「まったく、兄は何をやっているのでしょう… 
都が大混乱ではありませんか」
基経の妹・高子は、兄への軽蔑の念をこめ眉をしかめる。

「御者もなく野放しですから… 年寄りや子供が
蹴り飛ばされそうになったり、市場で野菜を勝手に
食べたり… 私も、ここまで来るのに大変でしたよ」
「ごめんね、タエ… 怪我がなくて
何よりでした。本当に困った兄です」

遊びに来ていた妙子は、苦笑を浮かべ、
「ま、今度の帝も、ついこないだまで
臣下だった方ですしね…
うちの人、じゃなくて上皇さま(先々代の陽成帝)が」
あれは、こないだまで私に仕えていたものではないか。
「なんて、おっしゃって… 完全にナメられて
ますよね。まだ、お若いし」

「お若くとも聡明なお方ですよ、今上の帝は。うちの人… 
じゃなくて、法皇さま(先々々代の清和帝)とちがってね… 
あまり甘く見ると、兄も後悔することになるでしょう」
干し柿をつまんで、高子はフッと寂しそうな表情を見せる。
「そういえば、ちん子… どこへ行ってしまったんだろう」


ちん子、すなわち道子はその頃… 
相模の国(神奈川県)あたりにいた。
「もし… お尋ねしますが、鳴神上人と
いう行者をご存知ありませんか?」

道に寝転がってる乞食に問うたのだが… 
起き上がった乞食は、異様に筋肉が節くれだっていた。
「ほーう、お前… 女のくせに魔羅が
ついてやがるのか… おもしれーな」