将門記(二)





7、 おちんちん! お前って奴は…




元慶4年(西暦880年)は、もうちょっと続くんじゃ。

10月11日、道真の父・是善
(これよし・69才)が没する。
12月8日(西暦では881年1月7日)、
清和上皇が、無茶な断食修行の末に崩御。

「1日も早く、この命を終わらせたい…」
そんな思いに突き動かされているような、
自暴自棄な修行ぶりであったという。

清和帝の陵墓は京都市北西の、山深い
嵯峨水尾(さがみずのお)に作られた。
付近の宿では、10月〜4月まで
柚子風呂に入れるらしいよ。



翌、元慶5年(西暦881年)。

三善清行は、役人になるための国家試験に挑んだが…
「\(TεT)/ぷっぷるぷー みごと玉砕…」
試験官は菅原道真… 受験の神さまなのにねえ。

菅原家の侍女・戸浪(となみ)と、「菅家廊下」の
講師・源蔵の密会が発覚。
2人とも菅原家を追放され… 
都の北方、芹生(せりょう)の里で私塾を開くことに。
同じ頃、4才の少女・苅屋(かりや)が道真の養女となる。

瀬戸内海に、海賊が出没していた。
犯罪者集団というよりも、朝廷に従いたく
ない地元の豪族らがバックに存在し、
都に送る米や貢物を奪い取るのである。
朝廷は5月、瀬戸内周辺の国司らに対し、
海賊を捕らえるよう命令を出す。



「いいものだな… おちんちんが痒いというのは」
陸奥の国司にたっぷりと砂金を献上させ、さらに
馬だの絹だの贈り物(ワイロ)もたんまりとせしめ、
道範の一行は、都への帰途についていた。
あの時以来、道範には、ずっと考えていたことがある。

道範は武人であるゆえ、時に命をかけ、
敵と戦わねばならぬこともあろう。
しかし、たとえ敵であっても、
命まで奪い取るのは心が痛む。

そこで… 命を奪うかわりに、
ちんちんを奪うのはどうだろう。
彼の経験からして、ちんちんは男の生命力の源である。
あれがないと、本当に何をする元気も湧かないのだ。

あの時、何が起こったのか… それを知らねばならない。
もし、あれが郡司のしたことなら… あの技を、
ぜひ自分のものにしたい。
そうすれば、不要な殺生をせずともすむではないか…
再び信濃の国を通りかかった時、道範は
従者たちに別れを告げた。

「お前たち、後は頼む… 道範は旅の途中で
死んだと… そういうことにしてくれ」
「もしや、例の郡司の館に… 今度失くしたら、
2度と帰ってこないかもしれませんよ!?」

道範は、はるか遠くを見つめ、
「それでもいい… もし坂の上に1本のおちんちんがあるなら、
ひたすら、それのみを追いかけていきたい…
俺は、そう思うのだ」
ららららー ららららー らりらりらー(テーマ曲:久石譲)


「教えてくだされ… あれは一体、なんだったのですか?」
道範は郡司の館に押しかけ、詰め寄った。

「魔羅落とし、ですか… くだらぬ術ですが、私が
かつて唐の羅浮山(らふざん)で修行していた頃、
習得することのできた数少ない術のひとつです」
背後の衝立の向こうから、奥方が
クスクス笑う声が聞こえる。

郡司こと、GODの生まれ変わりである珍宝は、額に
陰嚢のようなシワを刻んで、遠い過去を見つめる。
「あの頃… 道士にしては珍しいことですが、
妻帯している者がおりまして… 
その奥さんが、たいそう美しいと評判で、若い私は
修行もそっちのけで、ちんちんをプリプリさせながら、
しのんでいったのです… が、」

「なんと… あなたも、ちんちんを落とされたというのか?」
「奥さんをペロペロモミモミした後、入れようとしたら、
なかった… それどころか、私がペロペロした相手は、
奥さんではなく… 夫である道士その人でした。
女に変身していたのです!」
「マジすか…」

道範は絹やら馬やら、陸奥でもらった土産物を差し出し、
「お願いです! 魔羅落としの秘術を、
私にも伝授してください!」
「ま、いいでしょう…」

贈り物をたんまりもらって、珍宝は上機嫌だ。
「では、さっそく、明日から7日間、身を清めて精進しなさい。
言っときますが、素人さんには簡単に
できるこっちゃないですよ」



7日の精進期間は過ぎ、長野県の深い山中で、
本格的修行が始まる。
「よいですか。まもなく、川上から何かが下ってきます。
それが現れたら、たとえ熊であろうと鬼であろうと」
抱きついてキスをしろ、と言う。

流れの速い渓流に腰までつかった
道範を残し、珍宝は姿を消した。
しばらくして、不気味な水音とともに、丸太ン棒の
ような太さの大蛇が、川を泳いでくるではないか。
「無理! あんなのに抱きつくなんて、絶対無理!」
一目散に岸に上がると、茂みの中に隠れてしまう。

「ダメだなー、そんなことじゃ。あなたには、
これ以上の修行は無理ぽ」
いつの間にか戻ってきた珍宝の額の、陰嚢のような
シワは、深い失望を表している。
「お願い、もう1回だけ… 今度は死ぬ気でやってみる」
「しょうがないな、これが最後ですよ」


2度目の挑戦… 今度は巨大なイノシシが、水を跳ね
飛ばし岩を粉砕して、猪突猛進で突っこんでくる!
「えーい、こうなったらヤケクソだ! どうにでもなれ!」
目を閉じて、イノシシの前に立ちふさがる… 

ゴツゴツした巨体が覆いかぶさり、
ブチュッと唇が触れたとたん…
1mほどの朽ち木を抱いて、道範は
川の中に立っていた。
「あれ? これがイノシシの正体… 
じゃ、さっきの大蛇も…」
きーっ くやしい 抱きついてればよかった…

「わかりましたか。人間の視覚とは、
まことに信用できぬもの」
珍宝は消耗した道範に手を貸し、川から引き上げてやる。
「さて、あなたは川で何を見ましたか?」
「最初が大蛇で、次がイノシシ…」
「なるほど。蛇を避け、イノシシは受け止めたと…」

珍宝は、厳粛に宣言する。
「ならば、言いましょう。あなたは蛇の道、すなわち
魔羅落としの道には進めない」
「えええーっ そんな…」

「仕方ない、才能がないのですから。
かわりにイノシシの道、すなわち、
女体変化の道に進むべきでしょう」
「にょたいへんげ…」

なんともエロそうな響きだが、おそらく魔羅落としを
開発した道士の、もう1つの術…
妻に化けて若き郡司を引っかけた、
あの術のことであろう。

「自在にちんちんを取り去る術」と、
「自在に女に変身する術」…
あなただったら、どちらの術をマスターしたいだろうか。
「わかりました… その術でいいから、教えてください」



女体変化という新たな目標に向かい、修行は始まった。
何せ、まったくの素人が道士の術を習う
のだから、それはもうハードである。
体力には自信のある、武人の道範だからこそ耐え抜く
ことができた… そして1年後、ついに術は完成。

「道範さん! ついに、この時が来た… 
さあ、あなたの習得した秘術を見せるのです!」
「うむ… 道範、参る! これが
珍宝流… 女体変化の術!!」

1年に渡る荒行で、道範の肉体は、
狼のように研ぎ澄まされていた。
ぼうぼうと伸びた髭… いっさいのぜい肉が落ち、
引き締まった筋肉…
その肉体がくるくると、風に舞う
木の葉のように回り始める。

しゃらんらしゃらんらー しゃらららら− 
きゅーてぃーちぇんじ!

髭が一瞬に全て抜け落ち、髪の毛が
黒くつややかに伸びてくる。
筋肉の上を、柔らかい脂肪が覆っていき… 
胸も、尻も、ぷっくらと…
「じゃーん! 道子でーす!! てへっ」

「原型」とは似てもに似つかぬ
美女が、そこには立っていた。
「おおっ これは… 男とわかっていても、
興奮してしまうほどの美貌…」
珍宝も鼻の穴をふくらませ、ねっとり
した視線で「道子」を見る。

「いやーん。道子、恥ずかしい!」
ちなみに今、全裸である。
「女の人になるって… 不思議な気持ち…」
だが… なんとなく違和感を感じて、下を見下ろすと…
そこには、おちんちんがあるではないか。

「いやあああああっ どうしてっ!?」
「ううむ… 「魔羅落とし」と「女体変化」は、
表裏一体の術であるゆえ…」

つまり、ちんちんの生えている場所だけを
女にするのが、「魔羅落とし」。
ちんちん以外を女にするのが、「女体変化」なのだ。
「そういうわけで、ちんちんだけは、どうにもなりませぬ」

フタナリの美女という、エロゲーにでも出て
きそうなキャラになってしまった道範。
それにしても、かつて郡司の館でちんちんを
奪われた時は、あんなに寂しかったのに…

女に変化した今、実に邪魔っけで、わずらわしい。
しかも、女になった己の肉体に
反応し、びんびん立ちなのだ。
「おちんちん! お前って奴は…」
なんとも情けない気持ちの道子である



時はやや戻り、年が明け、元慶6年
(西暦882年)になったところ。

1月1日、陽成天皇(15才)、元服。
7日には、文徳帝(先々帝)の后・明子が太皇太后に、
清和帝(先帝)の后・高子が皇太后となる。
高子のたっての願いで、妙子(20才)は
少年天皇の女御… つまり、妻になることに。

「もう、そんなお年頃ですか!」
「早熟なのですよ。私の子ですから…」
実際、15才とはいえ体も大きく腕力もあり、
高子に似て美形な帝であった。
後に名うての遊び人となる下地が、すでにある。

妙子は年下がシュミで、しかも面食いだった
ので、少年をひと目で気に入った。
乱暴者として悪名高い不良な陽成帝だが、
武術や妖術の心得があるスーパーガール、
しかもバックに母の高子がついてる姉さん
女房とあっては、なかなか頭が上がらない。
何事につけ、妙子のペースとなってしまう。

「お上(かみ)… 女人を抱くのは初めてですか? クスクス」
「よ、よろしくたのむぞ…」
年上の妻の、若く健康な体が覆いかぶさり… 
帝は妙子に、のめりこんでいく。
「私の中に出していいんですよ、お上… 
お世継ぎを、授けてくださいませ…」



この頃、後に「清姫」の母となる
沙織(さおり)が、宇治で生まれる。
「えっ 蛇…!?」
「どうなさった、産婆さん」

「あ、いや… 気のせい… なんでもありません」
人魚の肉を食らった女・八重は、愛らしい
赤子を湯で洗いながら、今の幻影は
何を意味するのか、いぶかしんでいた。