将門記(二)





6、 おちんちん君! 

   君はどこへ行ってしまったんだ!





元慶3年(西暦879年)は、もうちょっと続くんじゃ。

「元慶の乱」で活躍した小野春風の家に、
八剣(やつるぎ)という従者がいた。
30代半ば、小沢一郎なみの凶悪な人相。
忠実に仕えてはいるが、腹にはイチモツある。
どうやったら主家を乗っ取り、
公家の身分になれるだろうか…

ある日、八剣は京の町を歩いていて、異様な
風体の修験者2人づれを見かける。
一見して、ただ者でないと感じた。
「徳の高い上人さまと、お見受けします。
もし今宵の宿をお探しでしたら、私の
叔母の家が近くにございます、ぜひ…」

宿を提供し、食事と酒を出してもてなした。
「頬にコブのある神」について聞かれたが、
「はて…? そのような神さま、このあたり
では、見たことも聞いたことも…」
「都の者も知らぬか。これはやはり、
東国まで足を伸ばさねばならぬな…」
爬虫類のような不気味な修験者は、
疲れたきった様子で黙りこむ。

「東国には野蛮人どもが棲んでいて、いろんな
異形の神を崇拝してると聞きます。
ですからきっと、そのコブのある神も… 
ところで上人さま。ひとつ、お願いがございます。
何か、私の将来に役立ちそうな術でも、
授けていただけないでしょうか?」
最初から、これが目当てである。

修験者はジロッと八剣を見ると… 
袋から、何か取り出した。
それは、直径5センチほどの琥珀(こはく)の玉…
内部に、ハサミムシのような昆虫が封じこめられている。
付属品として、日本では珍しい
羊革の手袋一対が付いていた。

「これは宝貝(パオペエ)・琥珀蟲(こはくちゅう)… 
この革手袋をはめ、一心不乱にこの玉を撫でるがいい… 
すると、おもしろいことが起こる」
今、琥珀の中のハサミムシが、モゾモゾと動いたような…

「こんな貴重なものを、頂戴できるとは…」
深々と頭を下げる八剣。
(これほどの琥珀、いい値がつくだろうな… 
が、不思議な力があるというなら、
売り払う前に、ちいと試してみるか…)


翌日、修験者たちを見送った後…
さっそく試してみた八剣は、目を丸くする。
「な… なんじゃコリャアーッ!?」
これはいかなる現象か、革手袋でこすった
琥珀の玉は、不思議な力を放射していた。
が、不思議は不思議であるが…

「こんなもの、俺の将来にどう役立つ? 
見世物でもして金をかせぐか?」
この琥珀は、あの修験者にとってオモチャの
ようなものだったにちがいない。
俺をガキ扱いして、こんなオモチャを
与えて、からかったのだ…

歯噛みして、くやしがる八剣。
くそ… 見てろよ… 
必ず、こいつの利用法を考え出してやる…



秋には源融の邸・六条河原院にて、帝が
天台僧の法力をご覧になる会が催され…
天狗と化した真済が乱入、すさまじいバトルを繰り広げる。
(天神記(一)「天狗誕生」「魔道」参照)

11月13日、「日本文徳天皇実録」を撰上。
編纂には菅原道真の父・是善、都良香らが関わっている。
「日本文徳天皇実録」とは、何か。
日本の文徳天皇の実録に決まってるよね。



年が明け、元慶4年(西暦880年)。

都を発って、奈良へと下った修験者
2人づれは、新たな仲間と出会う。
東大寺を脱走した若き修行僧、
超能力少年・命蓮(16)である。

「先生、私を弟子にして下さい! あんな役所
みたいな寺で管理されるのは、もうイヤだ!
生まれ持った力を存分に使い、
もっとおもしろいことをしたい!」
こうして鳴神上人、黒雲坊、白雲坊の3名は集結した。

摂政・藤原基経の四男、忠平(ただひら)が生まれる。
後に、平将門の主人となる人物。
平安のカブキ者・藤原利仁(としひと)も、この年誕生。
5月28日、在原業平が56才で没する。



宮中の警備を勤める武者、源道範(みちのり)は、
高子のようすが気になっていた。
平静を装っているが、地吹雪のように
低くうなる、魂の慟哭が聞こえる。

(高子さま… まさか、業平さまの
後を追って、ご自害などは…)
うつろな目で、高子は道範を見た。
にっこりと笑う。

「道範、こちらへおいで」
呼びよせて、しばらくの間、
たわいのない世間話などした。

前にも書いたが、高子は道範に、
若き日の業平の面影を見ている。
道範がそばにいると、ほんの少しでも、
心が癒されるのかもしれない。


だが、この噂が高子の兄・基経の耳に入ると、
「気に入らんな…」
あからさまに道範を追放すれば、高子が恨むだろう。
なにか、道範を引き離す妙案はないか…


「これが砂金の献上を命じる、
帝からの宣旨(せんじ)である。
これを陸奥(むつ)の国府に届けるのだ」
上司に呼ばれた道範は、重要任務を言い渡された。

「陸奥でございますか! それはまた、
いきなり… 遠いところまで…」
「都は今、外国と交易するための砂金が
不足しておるでな… さあ、行け!」



以下の物語は、山田風太郎のエッセイ「今昔
物語集の忍者」でも紹介されているネタです。
風太郎先生といえば、明治ものなんかも名高いですが、
やはり「甲賀忍法帖」で始まる忍法帖シリーズ、
「能力バトル」というジャンルを創り出して、
漫画・アニメにも多大な影響を与えましたね… 
もちろん、「日本魔史」も影響受けまくってます(笑)

「甲賀忍法帖」といえば、去年の紅白歌合戦。
「甲賀…」の映画版「SHINOBI」でヒロイン朧(おぼろ)を
演じた仲間由紀恵が司会で、アニメ版「バジリスク」で
朧(おぼろ)を演じた水樹奈々が、声優として初の紅白出場。
ダブル朧の共演だったんですね。
マニアックなネタですまんね。

夏の終わり頃、陸奥国府のある宮城県へと、
道範は8人の従者を引き連れ、旅立つ。

信濃(しなの)の国(=長野県)を通過する時、
とある郡司の館に泊めてもらった。

「さあ、どうぞ! 食いなされ! 飲みなされ!」
郡司は見たこともないような大男で、蜂の子やザザムシ、
熊の肝臓といった山国の珍味を並べ、もてなしてくれる。

屏風(びょうぶ)の陰から、郡司の妻も一行に挨拶する。
この時代、高貴な女性は顔を他人にさらさないものだが、
この妻は顔を半分以上のぞかせ、好奇心いっぱいに、
都から来た男たちを眺めている。
20才そこそこの、若くチャーミングな黒髪の美女。

鹿の焼肉をほお張りながら、道範はつい、
体がウズウズしてしまう。
(ダメだ… おちんちん君、君はどうして
僕のいうことをきかないんだ!)

不埒なことを考えていると、
「さあさあ、都の方! もっと飲みなされ〜」
郡司の巨体がのしかかり、道範の杯に酒を注ぎ足す。
すでに、かなり酔いが回っているようだ。


「それじゃ〜ヒック、ごゆるりと、お休みくだされ〜」
夜が更け、すっかり千鳥足の郡司は、使用人たちを
連れて、どこかへ行ってしまった。
母屋を、道範たちのために空け渡してくれたらしい。
「外見はゴツいが、なんとも親切な方だな」

道範自身も、酔いが回って上機嫌ではあったが、都の
飲み会の基準でいうと、一次会が終わったあたりの
時刻で、まだまだ寝るのはもったいない気分。
「田舎だからなあ… 夜が更けると、することもないや」
とりあえず、邸の中や庭をあちこち見てまわる。

「おや? あの部屋… 灯りがもれてる」
のぞいてみると… 郡司の妻が寝ているではないか。
(うわっ なんで奥方だけ… うう、いい匂い…)
決して色好みではない、むしろ
純朴な男だった道範だが…
奥方のあまりにセクシーな寝姿に、
つい理性がフッ飛んでしまう。

「奥さんッ 好きです!」
無断で入りこみ、女の上に覆いかぶさった。
目を覚ました女は、おびえたような
表情を見せ、袖で顔を隠す…
が、それ以上の抵抗はしないし、騒ぐようすもない。

女のはおっていた薄物をはがし、道範は柔肌を愛撫する。
切なげな表情を見せ、小さなあえぎ声が女の唇から
漏れてきたころ、いよいよ挿入… 挿入…
あれ? 入らない?

手でまさぐってみると、ボーボーとした毛があるのみで、
固くて太いものの手応えがない。
「(´゚д゚`;)……????????」
もはや、女どころではなくなった。
道範は首をかしげつつ、必死になって陰部をまさぐる。

おちんちんが、跡形もなく消えていた。
「きょ、今日は調子が悪いや… 出直すとしよう」
泣きたくなる気持ちをこらえ、そそくさと退散する道範。
女のクスクス笑う声にも、気がつかない。


寝所に戻り、ろうそくの灯りで入念にチェックする。
モシャモシャした毛をかきわけて
みると、白い肌しか見えない。
縮んでいるとか、切断されているとか、そういうの
ではなく、ただツルツルしている。
(\(^o^;)/わーい、どうしよう)

道範は、従者の1人を叩き起こすと、
「廊下の突き当たりに、奥方が寝ている… 
遠慮はいらん、やってこい!」
「わーい」
従者は喜んで出て行くと、しばらくして…
神妙な顔つきで戻ってきた。

残りの7人の従者も順次、道範に
起こされ、奥方にアタック。
いずれも短時間で、微妙な顔で帰ってくる。
「ふう… いい女でしたな…」
「いや、まったく…」

従者たちのようすを見ながら、道範は、
(こいつらも… ちんちんが旅に出たな…)
と感じたが、問いただすこともはばかられ、
かといって打ち明けることもできず、
(どうして、こんなことに…)
9人の情けない男たちは、うつろな目で
宙を見つめながら、ボーッとしている。


森の奥の小さな離れで、郡司と使用人たちは、
固まって夜を明かしていた。
「クックックッ… あのバカども、今ごろ
どんな顔をしているか…」

紙包みを広げると、そこには松茸のような
9本の魔羅(マラ)があった。
原作にある、この「松茸のような」って表現、
どうにかなりませんか…
松茸食べる時、思い出しちゃうよね…

「しかし郡司さまも、物好きですよね… 
旅人にイタズラして、からかうためなら、どんな
苦労もいとわないんだから…」
「これがワシの生きがいじゃ」

その時。

「羅浮山(らふざん)での修行のつらさに
耐えかねて逃げ出し、今ごろどこで
野垂れ死んでおるかと思えば、
このようなところで下らぬマネを…」
「誰だ!」
入口の筵(むしろ)を上げて、3人の修験者が入ってきた。

「久しいな、珍宝(ちんぽう)」
「あなたは… 我が師、李終南(りしゅうなん)先生!!」
郡司は目を見張った… まったく予期せぬ再会。
「なぜ… なぜ、先生が日本に? そのお姿は…」

「今は、鳴神(なるかみ)と名乗っておる。
こっちは弟子の黒雲坊と白雲坊…
それにしても、夜を明かそうと立ち寄った
山中の小屋で、かつての不肖の弟子と
巡り会うとは… 珍宝、貴様こそ、
この国で一体何をしておるのだ?」

「私は、10年前… 不老の術を伝授する
見返りに… 館と、郡司の職を手に入れ…」
郡司、いや、珍宝の巨体は、飼い主に
叱られた子犬のように縮こまる。

「珍宝よ、貴様の前世は西域で名の知れた
疫病神だった… だが、何者かに疫病神と
しての能力を奪われ… 転生した今では、ケチな
術しか使えぬ、3流の道士と成り果てた…
だが、下らぬ術にも、ほどがあろう」
などと説教しているうち、夜が明けてきた。

館のようすを見に行った使用人が、
戻ってきて報告する。
「郡司さま! あいつら夜明けとともに、
館から逃げ出しました!」
鳴神は、9本の陰茎に目をくれ、
「返してやれ」


夜が明けるとともに、いたたまれなくなって、
こっそりと館を逃げ出す道範一行。
が、しばらくして、馬で追いかけてくる者が。
「忘れ物ですよー(^o^)ノ」
郡司の使用人であった。

「ハイ、松茸9本! ないと困るでしょ」
使用人が広げた紙の上に、9本のソレを見た… 
と思ったら、消えていた。
「あれ? 元に戻ってる!」

松茸は、それぞれも持ち主の、所定の場所に帰っている。
しかも、朝なのでビンビン。
「立った、立った! 9マラが立った!」
と、一同はハイジのように喜んだそうな…
くだらないオチでゴメンよ…
しかし道範の物語は、まだ続きがあるのじゃ。