将門記(一)





16、 飛倉(とびくら)




昌泰4年(西暦901年)の続き。

道真は、大宰府に到着… 
白梅殿の梅、大宰府へワープ、「飛梅」と呼ばれる。
三善清行が時平に、道真の門下生への
迫害をやめるよう進言。
7月15日、「延喜(えんぎ)」に改元。
道真、「九月十日」というタイトルの詩を作って、涙する。


藤原温子の妹・穏子(やすこ)が、醍醐天皇の
女御として、入内することに。
温子のもとへ別れの挨拶と、ついでに御所ではどうしたら
いいか、アドバイスしてもらおうと訪ねてくる。
「ああ、もう! お姉さま、どうしましょう。
とんでもない失敗をしそうです><」

温子に似ているが、やや神経質そうな穏子。
名前に反して、心が穏やかな時はめったにない。
「だいじょうぶ。お付きの女房が、なんでもやって
くれるし、教えてくれます。穏子… どうか、
幸せになってくださいね」

まさか、道真の怨霊に祟られ、恐怖に神経をすり減らす
人生が待っていようとは… だれも、夢にも思わない。
(天神記(四)「弘法大師」「忍びよる影」参照)


「本院」と呼ばれる時平の邸では、かつて伊勢の
侍女であった女・八重が、暇をもて余していた。
人魚の肉を食らい、恐ろしく長い人生を
生きるハメになった女…
現在の女房ネームは「侍従」である。

「ヒマだ… なんか物語でも書いてみようか」
これまでの人生で見聞した不思議なできごとを、
後世に残してみようか。
さて、どの話にしよう… とりあえず、ベスト5をピックアップ。

第5位… 小野篁(おの の たかむら)卿と、
実の妹の、禁断のラブストーリー。
第4位… 深草少将が小町のもとへ百夜通った、
壮絶な愛の結末。
第3位… 愛する男を呪い殺した、「宇治の橋姫」の悲劇。
第2位… 真済(しんぜい)和尚と、染殿后(そめどの の
きさい)・明子さまの、幽明の境を越えた、異形の愛の契り。

「おや? こうしてみると、けっこう私って恋物語
好きなんだ… 意外…」
100年以上生きても、そこはやはり女性である。
さあ、栄光の第1位は…
「やっぱりアレかな。嵯峨(さが)の帝の求愛を断り続け、
月の世界に帰ったという…」

「かぐや姫」が、忘れがたいエピソード第1位となった。
さっそく、日本最初のSF小説「竹取物語」の
執筆に取りかかる八重。
まあでも、この後で八重自身が主役を演じる
「平安スカトロ事件」こそ、この時代の古典で、
忘れがたい話ナンバーワンだと思いますが(笑)



実りの秋、山崎上空にUFOが飛来して、米を要求した。
「1年ぶりだな、長者どの。今年もよろしく」
「………」
「長者どの」

「…なんで毎年毎年、うちにばかり来るわけ?」
かれこれ10年間、無償で米を提供している。
収穫されたばかりの新米が、ビッチリ詰まった倉を見ていると、
タダでやるのは、なんか悔しい気がする…

「\(^o^)/今年は、無視することに決定!」
UFO(鉄の鉢)を倉に放りこみ、錠を下ろす。
「米が食いたいなら、働くべし」
母屋にもどって、昼寝をする長者。


ところで、この山崎はエゴマの産地である。
エゴマからは油が採れ、江戸時代に菜種油が普及
するまでは、灯油として使われた。
清姫が安珍を焼き殺した油も、エゴマ油である。
山崎長者の富の源も、この油であった。
戦国時代に現れる「マムシ」こと斉藤道三は、
山崎の油売りから戦国武将に成り上がる。
彼が妻にする油問屋「山崎屋」の娘は、
山崎長者の子孫だという。

さて、だれもいない倉の中… 鉢が、動き始めた。
ヴィーーーーーーーーーーーン
赤いビームを発射、錠を焼き切る。
外に転がり出ると、ウインウインウインと浮上して、倉の上空に。

パワワワ・パワワワと、鉢の底から、反重力光線が放射される。
ゴゴゴゴゴ… 
倉全体が、地上から浮き上がった!
不気味な振動に、長者は母屋から飛び出すと、
目がビヨーンと飛び出るような驚き。
「な、なんじゃ、あれはーッ」

光線に吊られるように、校倉作りの大きな倉が、
空中に浮かんでいる。ではないか
そして南の方角へ、滑るように飛行開始。
それは、エンジンを使った航空機の飛行とはまるでちがう、
重力をコントロールするような、不思議な運動であった。
「倉を追え、逃がすな!」


「ど、どこまで飛んでいくのでしょう、ご主人さま!?」
「知るか! 倉に聞けッ!!」
とうとう、信貴山までやって来た。
山頂までヒーヒーいいながら登ってみると、
米倉は、粗末な庵の横に鎮座している。
立体映像でない生身の命蓮が、しげしげとそれを眺めていた。

「行者さま! お許しください。家の者がうっかり、
鉢を倉にしまいこんでしまいまして。
米ならいつものように寄進いたしますから、
どうか倉をお返しください」
「この倉いいねえ。お経とか保管するのにちょうどいい。
せっかく飛んできたんだし、くれない?」

「工工エエエエ(´Д`)エエエエ工工」
「中身は返すからさ。ね? 極楽に行けるよ?」
「うーん… 倉はまあ、差しあげるといたしましても、中に
積み上げた米俵を、どうやって山崎まで運んだものやら…」
「それなら、かんたん。まあ、見てなさい」

再び鉢がUFOのように浮上、倉の戸口の前まで
滑るように移動。
パワワワ・パワワワと、反重力光線を水平に放射すると…
「おおおおおおおおおおおお」
長者たちは、腰を抜かした。

飛び立っていく鉢に導かれるように、倉の中から
米俵が次々と、大空高く舞い上がる!
まるで渡り鳥のように編隊を組んで、俵の群れは
北をめざし、飛んでいった。
「すご…」
「信じられない…」

しばらくして、山崎長者の邸は、パニックに包まれた。
天からドサドサと、無数の米俵が降ってくるではないか…
「ひいいいいーっ」
「恐いような、うれしいような…」
まあ、米俵の直撃受けたら死ぬからね。


このエピソードは後に絵巻物となり、日本4大絵巻の1つ、
「信貴山縁起絵巻」となる。
奈良国立博物館で、たまに公開してくれる他、
朝護孫子寺でも複製を展示。
たまにじゃなくて、いつも公開してほしいぷー(>3<)
奈良国立博物館 公式サイト 
http://www.narahaku.go.jp/

絵をくるくる巻いて保管したり運んだりするのは、
中国が起源である。
この「画巻」が日本に伝わると、例によって独特の進化をとげた。
単なる「絵」から、「物語のついた絵」となり、くるくる
巻き取りながら読み進むと、画面に動きがあるように
見える、独自の表現方法をもつにいたる。
漫画やアニメの源流… かもしれないよ。

これ以後、秋に飛んでくるUFOを、長者が
無視することは決してなかった。
恐るべき超能力をもった怪僧・命蓮、彼もまた
怨霊・道真と戦う宿命をもつ。
12月には、その道真が雪の天拝山にこもり、
天の神に無実を訴えている。



年が明け延喜2年(西暦902年)。

新春。
伊予の国、ふかふかタオルで有名な今治(いまばり)。
地元の有力豪族・高橋友久(たかはし の ともひさ)から、
皆さんにお知らせがある。
「今治のタオルは、ハリウッドのセレブも愛用しておる。
吸水性がちがうのじゃ」
今治タオル 公式サイト http://www.imabaritowel.jp/

さて友久は、国司の藤原良範(よしのり)と懇意になり、
酒の席で、お願いをしてみた。
「どうでしょうか。私のせがれを、都に
連れていっていただくわけには…」
息子を、都の地位のある人の養子にする 
→息子が出世して、自分も栄える。
「どんな子だ?」

入ってきたのは、10才になる、例の背中に
タテガミのある男の子。
その目は活発そうな知性にらんらんと輝き、
顔つきは肝が据わっていた。
この子は将来、大物になる… 
跡継ぎのいない良範は、即決した。
優秀な子供を養子にする 
→その子が出世して、自分も栄える。

「新しい父上! 将来必ずや関白
となって、ご恩を返します!!」
「な、なんという大口を… もしなれなかったら、どうする?」
「その時は… 謀叛(むほん)でも起こして、
この国をひっくり返しますか」
などとうそぶくこの少年、数年後に都で
元服して、純友(すみとも)と名乗る。

ところで藤原純友と、財閥の「住友」は、
関係ありそうだけどないそうだよ。
実は住友家の祖先は、平将門の祖父・高望王なんだって。
ロスチャイルド家より古い、世界最古の財閥だそうですよ。
ちなみに作者のメインバンクも住友ですよ。



正月もひと段落したころ、左大臣・藤原時平の邸を
警備する藤原利仁は、職場の先輩「五位さん」を、
無理やり敦賀まで連れ出し、
「芋粥を飽きるまで食ってください!」
クレージーな芋粥パーティーの始まりであった。
(俵藤太物語「芋粥」参照)

道真が無実を訴えるため、冬山にこもったという噂は、
都にも届き、同情が集まる。
このところ、帝の体調が思わしくないのは、
それを気に病んでのことかもしれない。

3月13日、時平は最初の「荘園整理令」を出す。
「荘園整理令」とは何か。
荘園を整理する令に決まってるよね。
「クオーツ(902)ピッタリ荘園整理」

このころ、大宰府に近い天拝山で、白太夫VS松王丸、
悲劇の父子対決。
(天神記(三)「通りゃんせ」参照)

住友家の祖先・高望王は西海道の国司に
任じられ、大宰府へ。
たまに道真と酒を飲んだりもするが、この時の
道真は、すでの普通じゃない。
都から連れてきた2人の幼子、隈麿、紅姫があいついで死亡。
妻の宣来子も自殺(に見せかけた殺し)、
道真の精神は、さらに追いつめられた。

宣来子を手にかけた外道人・安梅も、
八篠ヶ池に浮かぶ土左衛門となった。
(当然の報いだ… 太郎と二郎を奪われた時… 
俺のために子供の像を彫ってくれた菅大臣… 
その恩を忘れ、奥方を手にかけたのだから…
俺は本物の外道よ… これから行くのは、
地獄にまちがいねえ…)

「元慶の乱」を終息させた藤原保則の嫡男・清貫
(きよつら)は、時平の命で、特使として大分県の
宇佐八幡宮を訪問、そのついでに大宰府によって
菅原道真のようすを見てくるつもりだったが、
道真は会おうとしない。

都に戻った清貫は、休暇をもらい、琵琶湖に
浮かぶ竹生島に参詣。
「浅井」という不思議な少女と出会った。
(俵藤太物語「浅井姫」参照)

そのころ、宇治の橋姫神社では。
深夜、いくつもの燭に火を灯し、必死の祈祷に
打ちこむ、美しい巫女の姿があった。
愛する男の妻が、この世から1日も早く消え去るよう、
全霊をこめて、呪いをかける沙織であった。