小町草紙(一)





プロローグ(2) 木馬




トロイア王子パリスは、単なる色男ではなく、
弓の名手であり、戦士としても一級だった。
不死身の戦士アキレウスの、唯一の弱点である
「かかと」を射抜き、これを倒す。
こうして「アキレス腱」という言葉が生まれるが、「かかと」と
「アキレス腱」って微妙に位置ちがうよね?
そのパリスも命を落とし、戦争は決着のつかないまま
ついに10年目を迎える。

ある朝…
ギリシア軍はすっかり姿を消し、城門の前に
大きな木馬が置いてあった。
「これは和平の贈り物です」と、側面に書いてある。
「おお! ギリシア軍が和平を申しこんできたぞ!」

「その木馬を、城内に入れてはいけない!」
またしても、正しいことを言うカサンドラ。
しかしトロイア軍は、見るからに怪しい木馬を
宮殿前の広場に運びこんで、
「ギリシア軍は撤退した! 戦争が終わった!」
と、酒を飲み、浮かれ騒ぐ。

これが世にいう「トロイの木馬」、今では
コンピュータウイルスとして有名だよな。
アンチウイルスソフト=カサンドラが、いくら
「怪しいモノを入れてはいけない!」と警告しても、
それを無視してダウンロードするとどうなるか。

その夜、トロイア兵たちが飲んだくれ、寝静まった後。
木馬がビキイィッと割れて、中から数人のギリシア兵が出てきた。
彼らは戦いの女神アテナに仕える、「聖闘士」と呼ばれる
戦士たちで、特殊な闘法を身につけている。
アテナは、パリスが自分を選ばなかったことを根にもち、
ギリシア側に肩入れしていた。
ギリシア軍参謀オデュッセウスに、「木馬作戦」を
授けたのもアテナだ。

「やれやれ。こんなくだらぬ戦いに、我ら聖闘士が
かり出されるとは」
「うちの女神さまにも、困ったものだ」
いく人かの不運なトロイア兵が、彼らを目撃してしまった。
「お、お前らは…」

「ギガ・ファランクス!!」

「いるか座デルフィヌス」の聖闘士スアロキンの繰り出す
無数の手刀によって、串刺しにされる兵士たち。
「牛飼い座ボーオーテス」のアルクトゥルスという聖闘士が、
城門に駆けより、

「ガルバニック・ストラトスフィア!!」

名前はすごいが、よくわからない必殺技で、
鋼鉄のかんぬきを破壊する。
城門は、内側から開かれた。

スアロキンがたいまつに火をつけると、それを合図に
ギリシア軍が再上陸、トロイア市内になだれこむ。
あとは、ただ殺戮あるのみ。

10年続いた戦争の、幕切れはあっさりしたものだった。
メネラオスはヘレネを取り戻し、宮廷の女たちは
飢えたギリシア兵の獲物となった。


女予言者カサンドラも、ミケーネ王アガメムノンの
戦利品となり、連行される。
そして、たどり着いたミケーネで、アガメムノンもろとも、
アガメムノンの本妻クリュタイムネストラに殺される。
(ミケーネの遺跡も世界遺産)

そのクリュタイムネストラもまた、父の復讐を誓った
実の娘エレクトラによって、殺される。
エレクトラは父のアガメムノンに対し、
禁断の恋心を抱いていたのだ。
(エレクトラ・コンプレックスという言葉の起源)


スパルタに連れ戻されたヘレネは、その後、
不幸な人生を送ったのだろう。
「あなたを、母親だなんて思いたくない… 薄汚い最低の女」
メネラオスとの間に生まれた娘のヘルミオネは、自分を見捨てて
パリスのもとへ走った母を、蔑みの目で見た。
(ヘルミオネの英語読みはハーマイオニー、
ハリポタのヒロインの名ですね)


「木馬作戦」をアテナから授けられた知将オデュッセウスは、
故郷へ帰還する途中、トロイアの味方をしていた
アフロディーテの呪いで遭難。
1つ目巨人サイクロプスの島に流れ着いたり、
いろんな大冒険の末、10年かかってようやく、
故郷のイタキ島に帰りつく。
(戦争で10年、その後の漂流で10年、計20年ぶりの帰還)

このオデュッセウスの苦難の旅の物語が、「オデュッセイア」。
英語発音で「オデッセイ」。
ホンダのオデッセイに乗って実家に帰省すると、
いろいろな苦難にあって、たどり着くのに
10年かかってしまうかもしれないね(笑)
あとIT企業で、社名に「オデッセイ」をつけるのは、
「トロイの木馬」の黒幕みたいだから、ちょっと
考えた方がいいですよ、某企業(笑)

オデュッセウスの帰りを、20年間待ち続けたのが、
妻のペネロープ。
たいそうな美女で、オデュッセウスが遭難して行方不明に
なったとたん、108人の求婚者が集まったという。
それをすべて断り続け、ひたすら夫を待っていた
ペネロープは、貞淑な妻の代表とされる。

後にフランスの作曲家ポール・モーリアが、彼女をモチーフに
「ペネロープ」という曲を作った。
日本名「エーゲ海の真珠」。

ちゃら〜らら〜 ちゃららららら〜らら〜 
ちゃららららら〜らら〜 ちゃりらりらり〜らら〜る〜

作者の小学校時代、掃除の時間に、この曲が流れてました(笑)



こうしてトリビアの宝庫、トロイア戦争は終結。
トロイアは滅び、1873年にシュリーマンに
掘り出されるまで、長い眠りにつく。
すでに伝説の存在となっていたトロイアを実在すると信じ、
ついにその遺跡を発見するシュリーマンは、その8年前、
日本を訪れている。
主に横浜に滞在し、八王子まで足を伸ばして町田に1泊してる
のだが、作者の住んでるすぐ近くまで来ていたのです!

町田の小田急デパートの、踏切がある方の出口に、
旧町田街道の碑が立っている。
この道をシュリーマンが通ったと思うと、町田とトロイアが
時空を超え繋がっているような、不思議な感じがするだよ。


このトロイア戦争を題材にしたタペストリーが、
16世紀末〜17世紀始めのベルギーで製作され、
その後、江戸時代の日本へ輸入された。
それが京都の商人の手に渡り、裁断されて、祇園祭の
山鉾(やまほこ)の飾りとして使われている。

「トロイア陥落図」、「トロイア王プリアモスと王妃の祈り」、
「トロイア王子へクトールと妃の別れ」といった場面が、
江戸の昔から今日まで、京の都を練り歩いていたのだ。
ここにヘレネの姿があればおもしろかったのに、
あいにくと無いようです。

「世界3大美女」は本来、「クレオパトラ」「楊貴妃」
「トロイのヘレネ」なのだが、日本人が勝手に、
「ヘレネ」を「小野小町」に差し替えてしまった。
そのヘレネが、数百年前から京都の祭りに参加していた、
なんてことになったら、皮肉がきいてて良かったのにね。



さて、ヘレネにつき従っていた巫女は、どうなったろうか。
もちろん、他の女官たちと同様、陵辱され、殺戮されていた。
運命に翻弄された、悲劇的な人生だった。

『月の都』で、巫女はアフロディーテに会った。
死の直前の、生々しい恐怖がまだ残っている。
「アフロディーテさま、ひどいですよ… こんな死に方…」
「お? 恨みがあるなら、地上に残って幽霊でもする?」

「いえ! それより今度は、私が絶世の美女に生まれたいです!
ヘレネさまを、世界一の美女の座から蹴落とすような… 
世界3大美女に数えられるような… そして今度は、
自分の美しさで、他人の運命を狂わせてみたい」
「あ、そう… じゃ、かなえてあげよっか」
「ほんと!?」

しばらくして、アフロディーテが月の宮殿から戻ってきた。
「ここ当分の、美女に生まれる予定の肉体は、
ぜんぶ予約済みだったよ〜
約2000年後に空きが1つあったから、押さえといた」
「に… 2000年…」
「ここにいれば、あっという間だって。
ほら、ヘレネちんも天寿をまっとうして帰ってきた」

言われてみると、美の女神アフロディーテの周りには、
さまざまな美女たちが群れ集っている。
気高そうな美女、優しげな乙女、お人形のような少女、
ワイルドな感じの娘…
「月の都で言葉をかわした魂は、『縁』で結ばれるから… 
この子たちも、巫女ちんと同じ時代に転生するかもね」



日本を代表する美女、小野小町(おの の こまち)の
生没年は、ハッキリわかっていない。
そこで「2ちゃんねる」にスレッドを立て、調べてみることにした。
以下は、その時の再現である。


【世界3大美女】小野小町の生没年不明すぎワロタwwwwwwwww

1 名前: ぷりぷりあうち 投稿日: 2003/06/30(月)
13:24:24.32 ID:PrPrOUch
(´・ω・`)さっさと調べてこいや童貞ブサメンども

2 名前: 名無し@VIPPER 投稿日: 2003/07/02(水)
18:55:05.30 ID:iIEPa00?2BP
なんというクソスレ

3 名前: 名無し@VIPPER 投稿日: 2005/09/11(木)
05:25:18.48 ID:W/fArAj0
板ちがいだカス

4 名前: 名無し@VIPPER 投稿日: 2006/03/25(土)
15:27:25.47 ID:d/WI6upyr0
私前世が小町だったけど826年だよ

5 名前: ぷりぷりあうち 投稿日: 2006/08/19(火)
22:25:30.89 ID:PrPrOUch
>4ありがとうよブス

6 名前: 名無し@VIPPER 投稿日: 2006/10/04(月)
09:25:25.47 D:d/WI6upyr0
(-_-)紀元前826年だよ

7 名前: ぷりぷりあうち 投稿日: 2007/11/30(木)
11:25:30.89 ID:PrPrOUch
いいから職安いけ


こうして4年間におよぶ調査の結果、
西暦826年であることが判明した。



天長(てんちょう)3年(西暦826年)、
第53代・淳和(じゅんな)天皇の御世。

この年、小町は秋田県湯沢市に、出羽(でわ)の国の
郡司の娘として生まれたらしい。
湯沢市観光サイト http://aios.city-yuzawa.jp/kanko/index.htm

新幹線「こまち」、ブランド米「あきたこまち」、さらには
「秋田県には美人が多い」という伝説も、すべて小町から
生まれたわけで、まさに秋田県のスーパースターである。
(秋田県出身の美女というと、他に
佐々木希しか思いつかないが…)

小町の本名は不明だが、「吉子(よしこ)」という説がある。
親しみやすくて、いい感じなので、これを本名として採用したい。

「小野よしこさん」の華麗なる人生が、今、幕を上げたぷ