水面

アリノリさんのサイトで20000HITリクエストを先着一名様受付とあって、強奪させて頂きました。
リクエストは「夢と眠り(安らぎ?)の王女様」。
…大好きな41号巻頭カラー見つめつつ、この至福をかみしめてます。(BY十月)



池の端っこに月が落っこちている。
ビビはスカートの裾を摘んで、白く浮き上がる石の上に飛び乗った。
池を囲んだ白い石は、どれも一抱えもある大きさで卵に似た丸さがある。
表面は柔らかそうでいて、ざらざらしているから。
気軽に飛び乗っても、滑って落ちる事はない。
本物の月はさっき、木々の間から顔を覗かせたばかり。
若くて心持ち三日月より太っている。
放たれる黄色はほんのりと柔らかくて。
弱く、ゆるく、辺りを照らしている。
落ちた月との違いは、それ。
湖の月はひっそりと静かなまま、眠るように沈んでいる。
自分が水の中にいるのをいい事に、何もしないでうつらうつらと夢見心地。
近くで寝ている彼女の仲間みたいに。
すうすうと寝息が聞こえてくるよう。
石から石へ。
爪先立ちでひょいひょいと飛び移る。
そうして、月の1番近くで止まり、石の突端にしゃがみ込む。
首を傾げ、かたむくように水面を見遣ると。
ひたとも揺るがない透明な水のおもてが彼女の顔を写す。
鏡には及ばない薄い影も、自分とさして変わらない。
あちらにいるのは、自分ではないのに。
同じなのは、どこか変。
くすぐるように指先で、つんとそのおもてを突つく。
小さな輪っかがゆらりと影を纏ってたゆたゆと広がっては、遠くへ。
波立つ水のざわめきに。
おもての影が全て揺らめき、滲む。
昼間、たくさん眠ってしまったから。
1人、起きている。
みんなは散々遊びまくっていたから。
深い眠りが夜目にも分かる。
夜の静寂に。
誰も彼女を見ていない。
見ようとしない。
ビビは石の上に腰を下ろすと、スカートを膝の上までたくし上げ、両足を池に向かってぶらぶらさせた。
高さがちょうど微妙な所で。
片足の爪先がつんと、また水のおもてを突ついた。
透明な輪が、薄く影を率いて、大きくたわりと月を歪める。
そのままゆっくりとくるぶしまで水に浸す。
更に歪む月。
もう片方も差し入れると、水の膜が二重の螺旋を連ねて回る。
くるくると月をかき混ぜて、拡散する輪の動き。
とめどなく連続するようでいて、やがては引いてゆく。
何事もなかったようにひたと乱れぬおもて。
へ、終息。
ビビは両の指先を後頭部へと差し伸べ、髪からゴムを引き抜いた。
流れ落ちた髪が石の表面をさらりと撫でる。
掌をお尻の両脇に付いて腰を浮かせ、石を押して水の中へと身を落とす。
目を上げる。
髪がゆらりと大きく広がり、その上では水のおもてがひどくざわめいている。
まとわりついていた空気が固まりとなって、水の上へ上へ逃げて。
彼女もぶくりと泡を吐いた。
月の形は万華鏡。
ぶくぶくした固まりに乱反射して、黄色くあちこちに散らばる。
けれど、光は乱れるようでいて、揺るがない。
水の中をも照らし、ほうと明るい。 彼女に驚いた魚の群れが、じたばたと逃げ出してゆく。
影のまま。
力を抜いて、水中に体を横たえる。
頭と足と同じバランスで、全てを委ねる。
たっぷりと水を含んだスカートが重い。
再び、直に月を見上げた時には。
思いっきり肺に空気を取り入れた。
荒い呼吸の中で、気配を感じ取る。
心配はしていない。
していないけど、ちょっと気にしている、おせっかいな気配り。
ふわりと。
笑みで応えて、また水に戻る。


いいでしょう?
こんな機会は滅多にないもの。
知らないふりをお願いね。


ぴたぴたと波打つ水面に。
誰かがどこかで呆れたように湿った息を吐いた。








王女様には月。



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