池の端っこに月が落っこちている。 ビビはスカートの裾を摘んで、白く浮き上がる石の上に飛び乗った。 池を囲んだ白い石は、どれも一抱えもある大きさで卵に似た丸さがある。 表面は柔らかそうでいて、ざらざらしているから。 気軽に飛び乗っても、滑って落ちる事はない。 本物の月はさっき、木々の間から顔を覗かせたばかり。 若くて心持ち三日月より太っている。 放たれる黄色はほんのりと柔らかくて。 弱く、ゆるく、辺りを照らしている。 落ちた月との違いは、それ。 湖の月はひっそりと静かなまま、眠るように沈んでいる。 自分が水の中にいるのをいい事に、何もしないでうつらうつらと夢見心地。 近くで寝ている彼女の仲間みたいに。 すうすうと寝息が聞こえてくるよう。 石から石へ。 爪先立ちでひょいひょいと飛び移る。 そうして、月の1番近くで止まり、石の突端にしゃがみ込む。 首を傾げ、かたむくように水面を見遣ると。 ひたとも揺るがない透明な水のおもてが彼女の顔を写す。 鏡には及ばない薄い影も、自分とさして変わらない。 あちらにいるのは、自分ではないのに。 同じなのは、どこか変。 くすぐるように指先で、つんとそのおもてを突つく。 小さな輪っかがゆらりと影を纏ってたゆたゆと広がっては、遠くへ。 波立つ水のざわめきに。 おもての影が全て揺らめき、滲む。 昼間、たくさん眠ってしまったから。 1人、起きている。 みんなは散々遊びまくっていたから。 深い眠りが夜目にも分かる。 夜の静寂に。 誰も彼女を見ていない。 見ようとしない。 ビビは石の上に腰を下ろすと、スカートを膝の上までたくし上げ、両足を池に向かってぶらぶらさせた。 高さがちょうど微妙な所で。 片足の爪先がつんと、また水のおもてを突ついた。 透明な輪が、薄く影を率いて、大きくたわりと月を歪める。 そのままゆっくりとくるぶしまで水に浸す。 更に歪む月。 もう片方も差し入れると、水の膜が二重の螺旋を連ねて回る。 くるくると月をかき混ぜて、拡散する輪の動き。 とめどなく連続するようでいて、やがては引いてゆく。 何事もなかったようにひたと乱れぬおもて。 へ、終息。 ビビは両の指先を後頭部へと差し伸べ、髪からゴムを引き抜いた。 流れ落ちた髪が石の表面をさらりと撫でる。 掌をお尻の両脇に付いて腰を浮かせ、石を押して水の中へと身を落とす。 目を上げる。 髪がゆらりと大きく広がり、その上では水のおもてがひどくざわめいている。 まとわりついていた空気が固まりとなって、水の上へ上へ逃げて。 彼女もぶくりと泡を吐いた。 月の形は万華鏡。 ぶくぶくした固まりに乱反射して、黄色くあちこちに散らばる。 けれど、光は乱れるようでいて、揺るがない。 水の中をも照らし、ほうと明るい。 彼女に驚いた魚の群れが、じたばたと逃げ出してゆく。 影のまま。 力を抜いて、水中に体を横たえる。 頭と足と同じバランスで、全てを委ねる。 たっぷりと水を含んだスカートが重い。 再び、直に月を見上げた時には。 思いっきり肺に空気を取り入れた。 荒い呼吸の中で、気配を感じ取る。 心配はしていない。 していないけど、ちょっと気にしている、おせっかいな気配り。 ふわりと。 笑みで応えて、また水に戻る。 いいでしょう? こんな機会は滅多にないもの。 知らないふりをお願いね。 ぴたぴたと波打つ水面に。 誰かがどこかで呆れたように湿った息を吐いた。 王女様には月。 |