−食肉魔人−

アリノリさんのサイトの麦わら船長お誕生日企画で、お持ち返りo.kとあったので
もらってきてしまいましたv サンジとルフィの会話。深淵(BY十月)



きい
トレイを掲げてラウンジに戻ってきたサンジは、麦わらから
覗く大きな瞳に出迎えられ、細く、目をすがめた。
口がもごもごと動いていない所を見ると、自分のいない間に
つまみ食いを試みた訳ではなさそうだ。
だが、俺の顔を見て「めしッ!」って声を張り上げもしない
で、いったいコイツはココに何の用だ?
サンジは後ろ手で戸を閉め、煙草をはむりとくわえ直した。
船長がトレイに視線を滑らせて、口を開く。
「ナミ、食ったか?」
「…あぁ、半分だけな」
「そうか…」
成る程、そういう用件か。
聞いて、下りていく視線は馬鹿正直で。
かなり不景気な感じだ。
まぁ、それはそうだろう。
頭の中まで胃袋が詰まってんじゃねェかってマジさばいてみ
たくなる食欲を持つこの船長には、食べられないってことだ
けで十分理解不能=マジヤバな心境に違いない…。
ルフィが座っている椅子の後ろをかつかつとサンジは通り抜
けると、トレイをシンクに置いて、残っていた中身を躊躇い
なく捨てた。
「捨てちまうのか?」
「何の病気か分かんねェからな、用心しておくに越したこと
はねェ」
「そんなモンなのか」
「ナミさんがそう言ったんだ」
「そうか」
サンジはその返答に肩小さく竦めた。
便利な言葉だ。
色んな考えを一言で表してくれる。
肯定とも否定ともとれる口調で、詳しい気持ちは想像せよっ
てね。
分かってて使ってるんなら、たいしたモンだ。
続く声音も景気が悪い。
「何で食ェねえのかな?」
「そりゃ決まってンだろ、熱があるからさ」
「何で熱があるんだ?」
「病気だからだろ」
「何で病気になったんだ?」
「ンなコト、俺が知るか」
「どうしたら、治るんだ?」
「分かんねェから、医者を探してるんだろ」
「そうだな」
「そうさ…」






きゅ
蛇口を閉めて、振り返る。
相変わらずの不景気な面。
長い沈黙を続けたり、眉間に皺を寄せたりして、似合わない
ったら、ありゃしない。
サンジはタオルで手を拭いてシンクに寄り掛かった。
短くなった煙草を灰皿に押し付け、新しいのに火をつける。
いったい、何が気になるのか?
この常とは違う船長は。
「食えば、治るってモンでもないんだな」
ちょうど紫煙を吐き出した時で、独り言めいて小さく、聞き
逃す所だった。
「はぁ?」
独り言ではない確証はあった。
なぜなら、奴はこちらを見ている。
「何でもさ、食えば助かるってモンじゃねェんだな」
それは、そうだろう。
「何、当たり前のコト言ってんだてめェは」
ん、だってよ。
麦わらへと伸びる掌を目で追う。
つばがくいと持ち上げられる。
「おれ、人の腕を食わせてもらって、助かったから」
掌を追ってたハズの視線の先に、いつの間にか大きな瞳。
言葉以上に雄弁に物語るその目は。
自分がよく知っているようで、知らないような心を写して。
遠い。
「ホントに食ったワケじゃあねェけど、おれが食ったも同然
で」
ひく
開く瞳孔に、詰まる呼吸。
…あァ、そうだ。
おれにもそういうコトがあった。
「すんげえ、呑み込むのイヤで、悲しくてさ。でも、すんげ
え旨くて。おれの胃の中にごとりと落ち込んで」
無理矢理食わされたワケじゃねェけど、そこにはおれの意思
なんかなくて。
「もう、おれの一部で、一緒に生きてる」
そして、それは釣り竿に繋がる釣り糸のように自分に引っ掛
かって、元の持ち主へと伸びている。
切れるコトはない。
「そうやって人を呑み込んで生きてくんだ」
食ったのは、食ってるのは一人だけじゃない。
自分だけではない。
「だから、ナミも食って元気になるんじゃねェかと」
思う。
そう、確か、ナミさんも呑み込んだハズだ。
人の命を丸ごと全部。
そのあまりの大きさに喉を詰まらせ、泣きながら。
「食えば、病気が治るんじゃねェかと」
思いたい。
その糧に自分がなりたい。
おれもそう。
みんな、そう。
…腹ん中が、熱い。
今はどうあがいても無力な自分が情けねェ。
食っても、食っても、如何ともしがたい状況ってのはあるも
んで。
そういう時には、こうして煙草を噛み締めたり、情けない面
見せたりする。
じたばたしたって、仕方がねェのに、手足が勝手に動いちま
う。
口がやたらとわめいちまう。
まぁ、つまりはそういうコトか。
情けねェのは、役に立たないのはお互い様。

…たまには、ひよるのもいいんじゃねェか。
なぁ、船長。



「だったら、おれたちもしっかり食っとかねェとな」
サンジは気付けばフィルタ近くまで短くなっていた煙草を揉
み消し、パッケージから新しい一本をつつと取り出した。
「ナミさんに作って差し上げたおかゆがまだ残ってんだ。食
うか?」
ニヤリと口の端を上げれば、瞳をぱちりとしばたかせ、歯を
見せ笑う。
しししし
手を振り上げて。
「おうっ、食うぞっ」
いつものように。
サンジは再びキッチンに向き直ると、ガス台に火をつけ、小
ぶりの鍋を手に取った。



食えるうち、食わせられるうちが花ってね。
おれたちゃみんな、そんなんで生きてる。
人の肉を食らい続ける化け物さ。
分かってる。
食わなきゃ、生きていけねェ。
だったら、いっそためらわず美味しく頂こうじゃねェか。
そうして食ったなら、おいしいと、笑顔を見せてくれれば。
それでイイ。



「ホラ、出来たぜ」
「おうっ、いっただきま〜す」







「ごちそうさま」を忘れずに。




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