① ノイズフロア改善機能
(a)ローデ&シュワルツもキーサイトに遅れていましたが、FSWシリーズなどに搭載されたノイズ改善機能(NC:ノイズキャンセレーション Noise Cancellation)は、キーサイトより改善幅が大きい13dB改善するとされていますが、通常はRBW:1MHzで11dB、RBW:10kHzで5dB程度です。なお、入力信号断の状態でスペアナのノイズフロアを掃引(トレース)して平均化した値を元に信号レベルを推定するため、クリアライトの場合は1回掃引後に表示されます。アベレージAV回数20回の方が改善量は大きくなりますが、AV20回ではノイズフロアも20回掃引後の測定になります。またPreAMPをONにすると改善量が減少し、RBW:1Mで5dB程度となりRBW:10kHzでは2dBも改善できないなど条件によって改善量が大きく異なるようです。 (b)キーサイト・テクノロジーのPXAシリーズN9030Aなどのノイズ改善機能(NFE:ノイズフロアエクステンション Noise Floor Extension)は工場出荷時の値を元に計算するためR&Sのように事前の掃引無く測定できる優れものですが、計算によって12dB低下(N9040Bは16dB低下)した値を表示しているためLNA(プリアンプ)などを用いると、熱雑音以下の表示がされてしまいます。また、工場出荷時のノイズフロア校正値を元に計算しているため、プリアンプをONにすると帯域境界など温度変動などで特性変動が大きい周波数では数dBも改善できないようです、NFEの改善が期待できる周波数を個々のスペアナ毎に事前に確認する必要があります。なお、R&Sと異なりPreAMP ONでも12dB以上(N9040B/N9041BはN9030Aより改善量が大きく安定して16dB以上)の改善が得られ、RBW:1MHzでも10kHzでも12dB以上の改善が得られますが、RBW:1MHzではクリアライトでも問題ありませんが、RBW:10kHzだと細かい補正ができずノーマル検波のようにバラツキが多くなるためトレースAVを20回程度にする必要があります。ちなみにN9041Bでは50GHzを超えるRF2入力側では50GHz以下もNFEは使えない(⑥参照)ようです。 (c)アンリツも平成28年10月に販売した、MS2840A、MS2850Aシリーズにノイズフロア改善機能(NFR:ノイズフロアリダクション Noise Floor Reduction)をオプションで追加できるようになりました。6GHz以下で11dB改善、6GHz超えでは約7dBとのことですが、実力は19dB程度改善できるようです。また、NFRはキーサイトのように工場出荷時の校正値を元に計算するため事前の掃引無く測定でる優れものですが、計算によって19dB低下した値を表示するためLNA(プリアンプ)などを用いると、熱雑音以下の表示がされます。なお、環境条件の変動などへの対策として、その環境でのノイズフロア校正値を30分程度で再取得が可能で、温度による特性変動が大きい周波数帯でも最大の改善量が期待できます。実力は6GHz以下では、RBW:1MHzで19dB改善、RBW:10kHzでも15dB以上の改善が得られます。RBW:1MHzでデータ点数1001ではクリアライトでも問題ありませんが、RBW:10kHzやデータ点数10001など多くすると細かい補正ができずポジ&ネガ検波のようにバラツキが多くなるためトレースAVを20回程度にする必要があります。外部ミキサ使用時でも30分程度で校正値を取得すればNFR機能でノイズ改善可能です。 ノイズフロア改善機能は、スペアナのノイズフロア以下の信号の目安をつけるのには良いかも知れませんが、測定値を用いる場合は本当に正しい値なのか十分な検証が必要です。他に選択肢がない、やむを得ない場合以外には無線機からスペアナまでの経路損失の改善を第一に検討しましょう。 ② 適正な周波数範囲のスペアナを使用しましょう 高い周波数範囲まで対応しているスペアナは低い周波数のノイズフロアが10dB以上も大きいので注意が必要です。 ③ FSW67とFSW50の比較 FSW67はFSW50をベースとして、50GHzから67GHzまで周波数範囲を拡張するための経路を追加しているため、50GHz以下では追加した経路を切り替えるためのスイッチなどの損失が追加され概ね30GHzから50GHzでは10dB以上もノイズフロアが悪化しています。 ④ FSW85とFSW50の比較 FSW85もFSW50をベースとしていますが、43GHzから85GHzまで周波数範囲を拡張するための経路を追加しておりRF1として1.0mmコネクタがありRF2として1.85mmコネクタが準備されています。43GHz以下では追加した経路を切り替えるためのスイッチなどの損失が追加され概ね30GHzから43GHzでは10dB以上もノイズフロアが悪化しています。しかしながら、43GHzで切り替えているため43GHzから50GHzではFSW50よりもノイズフロアが改善されています。またFSW67と比べると43GHzから67GHzでは、10dB以上もノイズフロアが改善しているようです。 ⑤ N9040B-508~-550 N9030AではNFEのON/OFF選択(約12dB改善)が可能で、デフォルトではNFE:OFFになっていましたが、N9040Bでは、デフォルトでNFE:Adaptiveに設定されていますので、ノイズフロアは14dB程度よく見えますが周波数帯によって改善量が異なったり、発振しているように誤解しそうな点があるので注意が必要です。また、NFEはOFF、Adaptive(約14dB改善)、FULL(約16dB改善)が選択できるようになっています。 ⑥ N9041B-590、-5CX 測定周波数範囲が50GHzを超えるスペクトラムアナライザは、ミキサや切替スイッチなどが追加されるため、50GHz以下では、上限周波数が50GHzや43GHzのスペクトラムアナライザよりNFが悪くなります。ローデ&シュワルツのFSW67(67GHz)は50GHz以下、FSW85(85GHz)は43GHz以下のNFがFSW50(50GHz)に比べて10dB以上も悪くなります。したがって、50GHz以下の測定が多い場合はFSW50を購入しFSW67やFSW85をあきらめるか、FSW85を購入した場合は50GHz以下のLNAの購入も検討する必要がありました。FSW85は85GHz(YTFなしで90GHz)までの入力がRF1で1.0mmコネクタで、67GHzまでの入力がRF2で1.85mmコネクタです。FSW67から3年遅れ、FSW85から1年遅れで市販された、キーサイトのN9041Bは上限周波数90GHz(オプション590)と110GHz(オプション5CX)は専用の1.0mmコネクタでRF2と称しFSW85のRF1、2と逆にしたようです。50GHz以下はRF1で2.4mmコネクタとしてFSW85同様に別コネクタにして、50GHz(N9040B-550)以下のスペクトラムアナライザに対し、2.4mmコネクタ入力側では50GHz以下のNFの悪化を1dB程度になっています。ただし1.0mmコネクタ側では50GHz以下で10dB以上NFが悪いほか、50GHz以下もNFEが動作しませんでしたが、ソフトのバージョンアップで110GHzまでNFEの動作が可能になったようです。しかし、一定期間使用するとNFEを校正するメッセージが表示され、校正に30分から40分程度かかるため、その間は使えません。N9030Aは工場出荷時のデータのままで後からの校正ができませんでしたが、MS2840A、MS2850Aが後から校正できるようになったためN9041Bも後から校正を採用したのかも知れません。 また、50GHzから110GHzの範囲はソフトウェアでプリセレクタの動作をさせていると誤解される名称のソフトウエアプリセレクション動作(変調信号測定不可)のため、掃引時間が20~30秒以上かかるほか、Vバンド、Eバンド、Wバンド、Fバンドの下限周波数に於いて掃引が一時停止しますので注意が必要です。10GHz以下の掃引周波数範囲においても設定した掃引時間(SWT)の4倍以上の掃引時間になってしまい、RMS検波モードでは平均時間が不明になります。ソフトウエアプリセレクションに設定すると3トレース程度でハングアップして完全にリセットしないと使えず、2年くらいしてバージョンアップされましたが、ソフトウエアプリセレクタのTypeアドバンストを選択するハングアップして使い物になりません。ちなみにソフトウエアプリセレクションという機能は、外部ミキサを用いたシグナルIDと同様な機能のためCW以外はまともに測定できません。ソフトウエアプリセレクション機能はデフォルトでONになっていますので注意が必要で、特にFM-CW(車載のチャープレーダー)などはシグナルIDやFSWのオートIDより劣悪で信号が完全に消えてしまうためスペクトラムアナライザが壊れたのかとびっくりします。ソフトウエアプリセレクションをアドバンストに設定すると掃引時間がランダムに変動しFM-CWでも少し検出できるようになりますが、1回掃引程度でハングアップしてデータがとれないため使い物になりません。 |
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