冬のとっかん単独行その3(2021.2.20~2.22)
樹の治療

2月20日(土)
木の治療という特殊任務をもっての出動。もっと早くやっておくべきだった。
西の土手に生えている大木の枝を切ったのが7年前。切り口になんの手当もせず放置していた。自然に表皮ができるだろうくらいに考えていた。ところがここ数年の高温多湿。切り口の周囲は樹皮がもりあがってきたが、中心部の芯は腐食していった。このまま放置すればさらに腐食がすすみ、傷口から上の枝が折れて屋根を直撃しないともかぎらない。梅雨入り前になんとしても手を打っておきたかった。

かといって手当の仕方もわからず道具もない。
腐食部を掻きだして、癒合剤を塗り、パテで保護する。基本的にはこれしかないようだった。手さぐりで物揃えを開始した。ヤマドリさんがネット通販での取り寄せにただちに協力してくれた。
植えたいと思っていたミョウガの根株も発注。徳島県から送られたきたミョウガが一番先に届いた。週末には植えつけにいかねばならないはめになった。2週連続の館山行になる。
丸ノミ、ちょうな替わりの小ぶりなバール、パテなど小道具はそろったが、肝心の癒合剤が間に合わなかった。これは館山のコメリで調達することにした。

今年から館山市内の循環バスが運行されて、車がなくてもかなり自由がきくようになった。コメリにも行ける。
癒合剤「トップジンmペースト」を買って、ついでに柿の苗木も買う。
現地に着いたのは前回と同じ4時すぎ。この日の仕事はミョウガ植え。場所は西の土手下、ハランの群生の隣。湿気っていてミョウガにとっては絶好の場所に違いない。
ヘクソカズラとマルバアサガオの蔓を掻きとって、自然の腐葉土を掘り生々しい根株に「がんばれよ」と声をかけて植えた。これでやっとミョウガ収穫の楽しみができた。

2月21日(日)
晴天。いよいよ土手に上がった。昨日からの強い南西の風が今日も吹きつづける。
使い慣れた竹切りノコで、腐食部のでっぱりを引く。クロアリがわさわさと出てきた。角度をかえて少しずつ切りおとしていくと、アリのほかにも黒光りした大きなヤスデ、さらにはアシダカグモもでてくる。虫の巣だ。芯の腐食部を掻きだすと、木くずが風に飛んで顔面を直撃する。つるがとれて壊れたゴーグルを輪ゴムで顔に装着して仕事をつづける。形成された樹皮と真ん中の固い木質部との間が腐食部となって奥まで伸びている。残念ながら用意した道具では限界だった。


去年7月の状態

昼過ぎからは庭の整備に仕事をきりかえた。草取りの範囲をさらに広げて、あらたに買った柿の苗木を植えた。
夕陽の落ちかかる庭にすわって、最後の缶ビールをあける。風は鳴りやまず竹は波打つが庭のなかは静かだ。

長袖tシャツにベストだけで寒くない。家をとりまく木々が風を抑えてくれている。一昨年の台風のときも彼らがこの小さな庭と家を守ってくれた。ねじくれた枝が天まで伸びて豊かに葉を繁らせている。高い大木に囲まれたなかにいると心がやすらぐ。大木はいつまでも大事にしたい。
家の前の土手の隙間にトベラの若木を移植しようと思う。これも梅雨前にやっておきたい。
この日の夜は、治療を成しとげられず傷口をさらす樹に思いをはせた。専門家のアドバイスを受けたほうがよいだろうという結論にたっした。
一昨年の台風で傷ついた沼のビャクシン(樹齢800年)を治療した樹木医と造園業者がいる。明日朝一番で電話をしてみることにした。

2月22日(月)
朝、コメリ近くの伊東造園さんに電話すると「私は母なので、詳しいことは息子に話してみてください。いつも持っている携帯の番号を教えますからね」と、お母さんのほんわかした応対。
その携帯は不在着信となって、しばらくしてから先方から電話がかかってきた。
わけを話すと、見に来てくれるという。しかし今日は平砂浦10:31のバスに乗って、館山駅から12:15のバスで帰らねばならなかった。
日をあらためるか、いますぐしかない。
「平砂浦からのバスが間に合わなかったら、館山まで送ってあげますよ。昼すぎのバスに乗れればいいんですね。これから行きますから」と言ってくれた。
ありがたいことこのうえない。ただちに荷造りをしてザックを背負えば帰れる支度をした。30分後に伊東さんが来てくれた。職人の地下足袋のスタイルだ。
土手に上がって樹の傷口を見てもらった。
外側の樹皮は十分な厚さで治癒しつづけている。中の腐食部をさらに綺麗にして、トップジンを奥まで塗りまくっておけば大丈夫だろう。パテで塞がないほうがよい。ということだった。傷口をチェンソーで削りとることは否定された。
これで方策がたち、気持ちが明るくなった。
葉が高いところにあって何の樹だかわからなかったが、聞いてみると「タマグスです。こういう風の強いところでも大きくなります」。
タブノキという名のほうが知られている。あらためて樹皮をみると、古木の特徴あらわでなるほどと納得した。
また道具をみつくろって、手当にでかけねばならない。伊東造園さんにもお礼にうかがいたい。