下準備(2020.7.18~7.19)
長梅雨の合間に

夏休み開拓団の前に、下準備と偵察ででかけた。
6月の開拓団からひと月。夏場は二三週間で草刈りをしないと、あとが大変なことになる。また今年の梅雨は雨がよく降り雑草の成長も早い。
今回の出動には草刈り以外にやることがいろいろとあった。
1)シーツを回収し洗濯する。
2)トウモロコシなど育てているものの生育をみる。
3)新芽が腐りはじめているモチノキの状態をみて手当する。
4)手当をしなければならない大木の診察。

土日ともかなりの雨が降りつづく予報だった。雨合羽を用意してゴム長スタイルで出発。ながいこと使っていなかった大型ザックに食料、着替え、医薬品、小物などをきっちりパッキングして背負いこんだ。これで登山靴を履いていれば完全山岳部のいでたち。

東京駅午後2時20分のバスに乗って館山で乗り換え。いっとき薄日もさしたが、洲崎灯台をすぎるころからまた雲行きが怪しくなった。降り出す前に家に着きたいとバス停から早歩き。2時間以上狭い座席にすわっていて、いきなりの早歩きさせられて脚もとまどう。現地5時着。


農家の田圃

6月に草を刈った庭は、丈は短いがもう一面に雑草が生い茂っていた。
三株植えたアロエは草に埋もれてどこにあるのかわからないほど。トウモロコシは風で折れて、実った房が地についていた。虫や動物に食いたかられてみるも無残! 畑の世話をする気もうせてしまった。

畑の隅に育ったアカザは、隣の梅の木ほどにも伸びてわさわさに枝を繁らせている。支えをしておいたので風にも耐えていた。どこまで太くなるかわからないが、種を採るには十分な成長だ。

ブドウはもっとも元気に成長していて、縦横に蔓を伸ばしている。もう少し丁寧に棚を作ってやる必要がある。

先月元気だった山椒は虫にたかられて葉がひどく縮れてしまった。ユズとみかんは育ちが悪い。日当たりと水はけに問題があるのかもしれない。
あれこれ見回っているうちに、ついに小雨が降りだした。室内気温24℃。涼しい。

気象レーダーの雲の動きでは6時と10時に強い雨雲が通過するはずだった。
小雨が止んだ明るいうちに草刈りをはじめた。濡れた地面と濡れた草、かがみこんで鎌を使うのがいやだったので、立ったままクワで雑草をこそげ取る! 外はまだ涼しかったのにたちまち汗まみれになった。火を焚かなかったのでちょっと油断をすると蚊にやられる。

薄暗くなる前に仕事を終えて汗を流し、着替えてさっぱり。缶ビールを開けて、暗がりになっていく庭やまわりの森を眺めていると無性に渚銀座が恋しくなった。
たまには顔をださないと義理がたたない…そんな思いもあった。
大雨にそなえてお出かけはゴム長。泥の汚れくらいは洗っておとした。 
車を呼んで「駅の手前の踏切のところまで」と言うと、運転手は無線で告げる行き先を「渚銀座」! まあそういうことだ。
一軒目のママが「あらー、お久しぶり」と迎えてくれて、今年になって初めてですねの話がはじまる。コロナ感染者が一人もでていない館山も、二三日前にフィリピン帰りの女性の感染者がでて「こわいから、よそ者は入れないのよ」と、東京以上に神経質になっている二軒目のママが笑う。

雨は夜中から降り始めた。
朝7時半、外の一斗缶を打つ雨音が聞こえる。昨夜の気象予報では今日は大雨だった。雨合羽仕事になる覚悟を決めた。飯を炊いて質素な朝食。冷奴と漬物、赤貝の味付け缶詰、うずら豆煮。面倒なので玉子焼きも味噌汁も作らない。
ところが8時半には陽がさしてきてまぶしい晴天になった。「大雨警報は解除されました」と防災館山のスピーカー放送もあっさり言ってのける。梅雨前線の雲の動きはこうまで読めないものなのか、なんとも大ハズレな予報だった。

雨合羽仕事なら下は半袖tシャツにパンツいっちょうでもやれるが、陽射しのなかではそうはいかない。
10分動いて10分休む。またまた汗びしょになってしまったら、もう着替えがない。

いよいよモチノキの木の点検をはじめた。前回、ひこばえを間引いて風通しをよくし、腐った新芽が伝染しないようにかなり切り落としてきた。その効果と梅雨の雨が十分な水分の補給をしたのだろう、しっかり濃くなった緑の葉をつけ、再び新芽もつき始めている。ひと安心した。植物活性液をまんべんなく吹きかけて、根にも与え、他の果樹にも。
先月、あやまって引っこ抜いてしまった青紫蘇の二番手が伸びてきていて、紫蘇の実(み)収穫の期待もつながった。また塩漬けができる。

今年の冬には山からトベラをとってきて、土手に植えたい。防風林になる。
西の土手にある大木は、数年前に傷みかけた傷口をそぎ落した。保護処置をしなければと思いながら放置していたので、案の定また腐食してきた。早く手当をしないと手遅れになる。

飛び地の荒畑をのぞくと、ダンチクの大逆襲。手も差し込めないほど密生して山になっている。行くたびに救出しているソテツがまたもダンチクに覆われていた。ちょっとやそっとでへたばらないソテツの元気な葉をちょっとかき分けてみて驚いた。天突くように雄花がそそりたっている。ここのソテツで雄花をみたのは初めてだった。それも二本。隣にはそれぞれに雌花をつけた株が三本。こんなに嬉しいことはない!

しかし今回、このダンチクの藪に切り込む心構えも準備もできていない。突撃は8月はじめに決行することにした。夏に! 正気の沙汰じゃない!
蔦のからまったうっとうしい小木をわし掴みにして鎌を振り下ろしたとき、枝を握った手に棘のささる痛みを感じた。また何かにやられたと思いながら仕事をつづけたが痛みがつづき、腫れと痒みもでてくる。掻けば痒みが倍にひろがる。まったくだらしないもので、こんな手の一ヵ所ごときで戦意喪失。絶対的信頼をおいていたステロイド外用薬を塗っても期待した効果がでない。それよりキンキンに冷えた缶ビールを握って冷やしたほうが痒みが消える。ついでに祝杯だ!
東京に戻っても刺し痕と痒みが消えない。

連休が明けたら皮膚科へ行ってつぎの闘いのために予備の外用薬をもらう。まえのときも飲み薬をすすめられたが、飲み薬はよほどのことでないと遠慮したい。十日、二週間がまんすれば治る。
何だったのだろう。イラガの毛虫を掴んでしまったとしか思えない。チャドクガの毒毛を浴びるよりましだ。軍手でだめなら、次は革手袋かゴム引きにするか…。虫刺されありかぶれあり、あの藪はてごわい!