ここでキジを撃つか!
部員m

洲崎神社の後ろにモコモコとした山が控えている。
師曰くここが入り口。

入り口といっても、それを示す門や看板がある訳でない。そもそも、通るべき道すらない。なんの前触れもなく、壁のように、ただ山がある。そこに皆がためらいもなく入山する。

ひょいひょい先を行く焚火さんとihさんからどんどん引き離される私は困惑し、硬直する。身体は一挙に退化し二足歩行を忘れる。四つん這いで、視界に入り込む草木の根っこにしがみ付き、追いすがる。途中虫の一匹でもいれば心休まろうもの。でもそこには手足持つ生物の影も形も見えず、ただ土と植物のみが圧倒する急斜面。その険しい山肌を、山岳部員らが点々と一列に隊を成し、うごめいている。

やられた…と、最初の5分で後悔に次ぐ後悔。離脱のタイミングを伺うが、ここでリタイヤしたら、この急斜面を一人で降らねばならず、それは到底ムリ!!一度足を踏み入れたら後戻りできない。

10分…あるいは20分?時間がどんどん膨張する。「こんなに大変だなんて聞いてないよ」「来なきゃよかった」「帰りたい」頭の中をネガティヴな言葉がぐるぐる回る。呪詛。

ただひたすら地面を見ながら一歩また一歩。「一体どこまで続くんだ」行く手を見上げて「わーー!!」と叫んだ。
私の前を行く〈部員o〉が、ほのぼのとした様子でキジ撃ちにかかっている。
私の声に振り返り、驚いて「なんでこっちに来るんだ!」と慌てふためく。
問いたいのは私の方だ。なぜこのタイミングで悠然とキジを撃つ?

断崖絶壁をものともしない動物がいる。子供の頃にテレビで観た。ほんの僅かの足場で立ったまま眠る山羊とか、崖を駆け巡り喧嘩する猿とか。彼らが足を滑らせないのは、本能で道が分かるのだ。どこを通れば安全か。
今、私が窮地に立たされているのは、その道筋が分からないからだ。道なき斜面を前に、どこをどう伝っていけば安全なのかが分からない。だから、前を行く仲間の足取りを見失わぬよう必死で追いかけている。なのに、前の〈部員o〉がキジを狙う。となれば待機するしかない。私が止まり、後続隊もそれに続く。

キジ撃ちは真剣勝負だ。人目を気にしてするもんじゃない。呼吸を整え、タイミングを合わせて慎重に挑むものだろう。ましてこんな急斜面じゃ。だから私も、申し訳ないなとは思う。しかし、この状況では後に引けないし、右にも左にも行けない。だからジッと待つ。「まだですか~。」と時折声をかけながら。
やがてキジは無事に撃ち落とされて、隊は再び進み始める。もちろん、同じ道をなぞる。不安そうに振り返る〈部員o〉が、必死に前進する私に声をかける。
「あっ。そこ気をつけてね~。」

続く。
次は〈部員m〉のお花摘みのおはなし。