夏休み開拓団
うなぎ組(音)

「ドジョウありますか」
「ドジョウは、ないですね」
「ない! 駅の近くの店なら、ありますか」
「ありません。どこでも見たことありません」
410号バイパスのodoyaの鮮魚売り場。勢いこんで飛び込んだのに出鼻をくじかれた。うなぎ獲りの餌がない。
こんな大きなスーパーにないのなら、あとは魚屋に行くしかない。
ここでは餌用に鶏の手羽を二パック買った。

駅方向に戻って幸田旅館の向かいにある魚屋の「丸太」に駆け込んだ。
まわりを見回しもせず、おかみさんらしき人に声をかけると…。
「ドジョウはないのよ…」と言いながら魚の捌き場をのぞく。
出てきたののは店のオヤジさん。
「ここらは、ドジョウを食べる習慣がねえから、どっこも置いてねえよ」
まさか! ドジョウを売ってない町なんてあるのか。東京のちょっとしたスーパーだって、ポリ容器にドジョウが泳ぎまくっている。
信じられないことだが、諦めるしかなかった。もたもたしているわけにはいかない。
現地の庭でミミズを採るしかない。

うなぎ筒はロープを付ける仕上げの仕事が残っていて、焚火さんがドリルで穴を開け、三才さんと克ちゃんがロープをくくりつけてくれた。完成。

私はミミズ採り。
土手側の柔らかい土をクワで掘り起こす。いつもならプリプリしたのがすぐ弾けでるのに、夏の日照りつづきで土が乾いていて、なかなか出てこない。
cパパもシャベルでしばらく手伝ってくれたが、「乾いてるから、いないなー」とあっさり放棄。いいキャラだ。
ドジョウが手に入らなかったのだから、あとはミミズに頼るしかないのだ。
家の裏の湿った土を掘り返した。やっと出てきた。いきなりの土掘りで流れ落ちる汗にまいった。たちまち腰も疲れて、十二、三匹を採るのがやっと。
うなぎ筒にいれたのは、手羽一本とミミズ二匹くらいずつ。これじゃ餌にならない。本来ならミミズ一握りくらい入れたかったのだが、いたしかたない。運を天に祈る。

5本の筒を持って、7人で山に入った。
池までは15分で行けるはずだ。先頭が私、焚火さん、克ちゃん、cパパ、デンキさん、やっしー、宮ちゃんの一列縦隊。
cパパは短パンにサンダル、半袖シャツだ。ちょっと裏山にでかけるといったいでたち。余裕か?
池はいつものように神秘的だった。

前に釣りに来たことがある焚火さんは、池の淵の藪をかきわけて奥に進む。すぐ姿が見えなくなる。デンキさんもつづき、やっしーも筒を持って後を追う。
cパパは針に餌をつけた仕掛けを3本作って、堰の淵に放った。
奥に行った三人がドボン、ドボンと筒を落とす音だけが聞こえる。
さあ、どの筒に獲物が入るだろう。

山を降りてビール飲みながらバーベキューの仕度をはじめると、もう筒の回収に出かけるのもいやになった。誰ともなく「明日にしようか」。
夕方までに筒を回収して、新しい餌を仕掛けて翌朝二度目の回収をする計画だったのだ。しかしもうミミズを掘る元気もない。

その日の夜、部屋飲みをしながらおそるべきことに気づいた。
翌朝は釣り組が早朝に出発する。
釣り組でいなくなる三人が池の奥のどこに筒を投げて、どこにロープを結んできたのか私は知らないのだ。
一人で回収か…あんな藪のなかで池に沈んだ黒いロープを探しだすのは容易ではない。
ほとんど決死隊のような気分になった。うなぎをかついで池に落ちたら「遭難」だぞ。

さいわい、やっしーが釣り組から外れて、宮ちゃんも船から早戻りした。
よし、回収だ。
クーラーボックスをかついで再び山に入る。
cパパの針にはかかっていない。私の筒も空。やっとみつけた三本目の筒が重い。高まる期待! が、ひきずっていたのは太い枯れ枝…。筒5本とも全滅だった。しょうがない、あの餌じゃなぁ。

これで諦めるのはまだ早い。こんどはドジョウだ。ミミズもいっぱい入れてやる。
いつやろうかな…