いいと思うよオジサンは…

「かわばた」の暖簾をわけて引き戸を開けると、ママは待ちくたびれた顔でカウンターの中の小椅子に座っていた。
「こんばんは」と声をかけてわたし、ニャゴさん、kuwaさん、さっちゃん、三才さんとつづいて店に入る。
7時半頃に行くと連絡しておいたのに着いたのは8時近くになっていた。ママは7時から店に出てくれていた。
「いらっしゃい」と立つママの顔が明るくなった。
idさん邸から歩くと10分ほどかかる。最高気温連続を記録していたときなのですっかり汗ばんでいた。
まず生ビールのジョッキで乾杯だった。
ニャゴさんが遅くなってしまった訳を話して詫びる。
すぐ冷や奴を出してくれた。暑いなかを歩いてきたので文句なしにありがたい。
腹がへっていたのでさっそくつまみを頼みたかった。
黒板にはいろいろ品書きがある。
日曜の臨時営業だったし、「今日できるのは何があります?」と気をつかってニャゴさんが聞くと「だいたいはできますよ」。
山芋の千切り、そのつぎに茄子炒め。
生ビールのつぎは焼酎・二階堂ボトルをもらって水割りに…
野菜炒め、…しゅうまいも出してもらったかな。
これでお腹もおちついた。
ずっと火を使いっぱなしだったママは汗かいて、しばらくうちわで扇いでた。

ママも一息ついたところで「いいと思うよオジサン」の話がはじまった。
前回の7月に、ニャゴさん、maiちゃん、私とで来たときに、カウンターで同席した地元の常連さんのことだ。
店に入って会釈したときはそっけない態度だったのだが、じきにわれわれと一緒になって、昔の給食やこっぺぱんの話で盛り上がった。ママもみんなも大笑いしてあまりに楽しかった。
―幸田旅館に泊まっているんです
「幸田旅館、うん、いいと思うよ」
―そのすぐ前に丸太っていう魚屋があるでしょ
「丸太、うん、いいと思うよ」
―「前はずっと池田荘に泊まっていたんですけどね」
「城のとこの…うん、いいと思うよ」
なんでも「いいと思うよ」が返ってきて、これまた笑いに…。
それ以外の言葉はよくわからない。

その「いいと思うよオジサン」にまた会いたかったのだが、名前も知らないし、職業も知らない。
ママに聞いても「誰だったかしら?」と頭をかしげるばかり。
「ほら、何か言うと“いいと思うよ”って言ってた人」
「玄関すぐのカウンターに座っていたじゃない」
「わりと年輩で細身の人だよ」
「ジャージ着てた」
それでもママは思いめぐらしている。
しばらくして突然、ママが声をはりあげた。
「ああ、わかった! もしかして、何を言ってるのかわからない人じゃない?!」
「そう!」ニャゴさんも私もやった、と思った。
「ああ、あの人ね、船もってるのよ。趣味でね。仲間を乗せて海に出たりしてるの」
「ええっ、船もってるんだ。すごいね」
「瓦屋さんなの。でも何言ってるかわからないでしょ。あたしも20年つきあってるけど、ただうんうんって聞いてるだけよ!」
「やっと誰だかわかったね。連絡がつけば今日来てもらって会いたいと思っていたんですよ。この前一緒にきた女の子もあのオジサンのファンだから」
「ああ、この真ん中にすわってた子ね」
「うん、笑いすぎてお酒も飲めなかったって言ってたよ」
「あら、そうなの、、、あの瓦屋ね、」とうとう瓦屋と呼び捨てになってしまう。でも親しみがこもっているから「いいと思うよ」。

次の開拓団は9月14日だから、そのときはぜひ「いいと思うよオジサン」にまたお会いしたい。
こんどは「瓦屋さんに声かけておいて」と電話しなきゃ。