夜の開拓団日記
mai

るるる~。
開拓団前夜、終電で帰るつもりが、気付いたら朝5:30まで飲んでしまった大馬鹿女よりお届けする、開拓団酒記録。


幸田旅館の夕飯は。
醤油豆、胡麻豆腐、味噌キュウリ、豚と野菜の蒸し料理、刺身三種に焼き魚(さわら的な)、鯨のステーキ。風呂代浮いたおかげでビールも飲み放題状態。最後は芦坊さんのハッピーバースデー。
部屋飲み開始するも、バタバタと数名、早くも横たわる。涅槃仏みたい、と生き残り組が笑っていると、寝ながら飲んでる川鍋さんが「そりゃあもう、しきそくぜきゅう…あ、口が回らないや」と呟いた。
今日はみんな疲れたし、部屋飲み用の酒はいっぱいあるし、夜の開拓団面倒くさいなぁ、心だらけた次の瞬間、隣にいた白石さんが「そろそろ行きますか」。
すると「わたしも」「おれも」と参加者続出。うぬぬ、流石はしゃれこうべの強者揃い、負けてはおられぬ、ならば私も。
総勢5名はブルームーンへ。カラオケやらないニャゴさん、音さん、私の三人は新たな店を探す事にした。2グループに別れ、いざ夜の開拓団。

探しているのは、ちょっと癖のある店主と酒好きな常連客。館山の飲兵衛と仲良くなりたい。ネオン輝く繁華街に、果たしてめくるめく赤提灯はあるのか〓
最初に立ち寄ったのは、剣菱・京風鍋、の看板が堂々と掲げられた「定吉(さだよし)」さん。

そっと戸を引いて「お腹いっぱいで食べられないんだけど、一杯だけ、いい?」
中は靴を抜いで座るタイプの小上がり六つに、カウンターが六席。お客さんは若いお兄ちゃんたった一人。80年代前半のテクノボーイ風。小上がりを勧められたけど、お願いしてカウンターに座らせて貰った。

「お腹いっぱいなの?ベーコンエッグだそうと思ってたけど、そうねぇ…山芋なら食べられるかしら?」と、お母さんが冷蔵庫をガサゴソ探してくれた。
かきんこきんの冷たいレモンサワーがどどどっと出てきて、カンパーイと喉を潤すと、隣の眼鏡の青年が、すっくと席を立ち
「ちょっと散歩してくる。嫁探し♪」と店を出てしまった。あぁ~行かないで、一緒に飲みたかったのにぃ。

壁にかけられたお品書きが一風変わってる。ソーメン、たぬきうどん、チャーハン、焼きそば。〆ばっかり。
お母さんの話では、この辺りの女の子達が仕事後に食べにくるのだそう。成る程。だから営業時間も遅くて20時~3時。きっと本当のお母さんみたいに、女の子達を出迎えてあげているんだろうな。
我々の開拓団の話に面白そうに耳を傾けてくれたお母さん。一ヶ月に一回しか来れないんじゃ、いつまでたっても終わらないじゃない!と笑う。また来た時に進み具合聞かせてね。

また来る事を約束し、大満足で店を出た。もうちょっとぶらぶらしてみるか、と歩き始めると「あれ。もう帰っちゃうんですか~」
あー!さっきのカウンターのお兄さん!
「嫁探しはどうなったんですか!」と私が聞くと「しーっ!」と人さし指を口にかざし照れてる様子。
「この辺でどっかいい店知らない?」と尋ねると、一緒に歩きながら視界に入る店を片っ端から説明してくれるのだが、情報量が多すぎて、何がなんだか分からない。とにかくこの地域で相当飲み歩いていると思われる。見つけたよ、館山の鬼ころし。
ところが、話によると彼、車で20キロのところに住んでいるとか。「えー、じゃあ帰りはどうするんですか?」「車で寝るんだよ。かれこれ10年間車で寝てるからね。じゃ、私はここで。」そういって別のスナックに入ってしまった。嫁さがしも大変なんだ。

ブルームーンの前にさしかかる。陽気な歌声が聞こえてくる。置き看板に何気なく目をやると、ん?んんん?「ブルームン」って書いてある!!


似たようなもんじゃない、気にしない気にしない、と強引に猪突猛進するママの笑い顔が頭に浮かぶ。世界最強で史上最高なママ!

笑いの余震に脅かされつつさらに歩き続けていくとスナックの中にまた小さな飲み屋発見。見た瞬間、我が人生における飲み屋ベスト3に名を残す、笹塚の「利根川」がフラッシュバック。時を経て浦島太郎が竜宮城を思う感覚は、私が「利根川」を思う感覚と同じに違いない。その「利根川」に似た存在感で佇む「かわばた」。何か匂うぞ、この店は。

のれんをくぐる夜の開拓団。
迎えてくれたのは、ドキンちゃん似のアーモンド形の目をしたママ。入り口近くには、あー、このおっちゃん、絶対じゃりン子チエに出てる~って感じの風貌のお客さん一人。
席につくと、真っ二つに切った茄子の塩もみと白菜浅漬けが一枚のお皿にどーんと丸腰で登場。取り皿はない。館山、てんこもり条例発令されているのか。どの飲み屋も、お通しが豪快すぎる。

さて、会話に花が咲く前の、慎ましやかな静けさよ。互いに横目で様子を伺う。ママと目が合い、にぃッと笑うと、同じように笑顔を返してくれた。身を乗り出して、おっちゃんにも、にぃッ。これも好反応。確かな手応え。
さあて、徐々に盛り上がっていきましょうかね、と揉み手。が、五分後。既に尋常じゃない盛り上がり。
待て待て。みんな落ち着け、と慌てるも、時既に遅し。取り返しがつかない事態とは、まさにこのこと。
おっちゃん、壊れたレコードプレーヤーみたいに「いいと思うよっ!」をリフレイン。口を開けば「いいと思うよっ!」。ぎっちり蓋してもびょーんと飛び出すびっくり箱みたいに「いいと思うよっ!」「いいと思うよっ!」「いいと思うよっ!」
「いいと思うよっ!」のリズムに乗って、いよいよ饒舌になるニャゴニャゴ。果てしなく続く「コッペパン」の話。それを聞いて、「あーはっはっはっ」と腹を抱えて笑うママ。
メチャクチャです。
つられて笑いが止まらない。笑いすぎて突っ込みも出来ないどころか酒も飲めやしない。

今年一番の大笑いで、よろよろになって店を出た。「はー」どっとため息。「かわばた」凄いな。制してくれる誰かと一緒にいかないと、五時まで飲んじゃう、そんな店。

両手に余る収穫を得て、幸田旅館へ戻る。
部屋飲み再開。ブルームンチームも帰ってきた。お土産に正龍の餃子買ってきてくれて、これが本当に美味しかった!
ここに来て、にゃごレベルが急上昇する。やーいとからかうと「うるさい!ちょっとにゃごレベルもいいじゃない?ここが俺の部屋なんだ!ばかやろう!」と返り討ちにあった。
白石さんは、愛すべき酔っ払いで、みんなが正龍餃子食べた後に「食べさせない!食べちゃダメ!」と立腹。でも、もう食べちゃった!
やがて時計の針が2:30を過ぎたところで、押入れからドスーンと落ちる男あり。その衝撃で外れた襖を頭に受けて痛がる男あり。
そろそろいいかげんお開きにしますかね。
というわけで、開拓団にしてはちょっぴり早めの終演。
いやはや、たらふく飲みました。
やっぱり館山飲みは格別です。