【その62】

  シン・ゴジラにだまされないために   地底人

きのうのこと…

MX4Dとやらの「シン・ゴジラ」を観てきた。
最前列の席しか空いておらず、近すぎ。
さあ、はじまりました。
座席が揺れたり、顔に風が吹きつけられたり、霧吹きされたり、、、まず、うっとうしいわ。

東京湾に巨大な熱水蒸気の噴出が起こって、アクアラインの海中トンネルが壊れて浸水する。やがてゴジラの幼体のような「巨大不明生物」が姿を見せ、多摩川を遡上しはじめて大騒ぎになる。
政府は閣僚を招集したり、あれやこれやの危機管理の対策会議を開いたり、そんな場面が連続して映し出される。
こういうときは、行政はこんな風に右往左往しているんだよという説明だ。
「動物保護団体から、捕獲調査をするべきだという意見がでています」
「生物学の有識者が到着しました!」
こんなセリフが飛び交う。とってつけたような嘘シーンとしか思えない。

首相はテレビで「巨大不明生物の上陸はありえません」といち早く宣言するが、放送した直後に「上陸」してしまって暴れ出す。
「言ってしまったものはしょうがないだろ!」と憮然とするシーンで、混乱状態を象徴させてみせるのだろうが…。

ゴジラ幼体が川を遡上するシーンでは、押し流されるプレジャーボートや釣り船などが山のようになって陸に打ち上げあれるが、船がこんなにあるはずがない。

自衛隊の防衛出動が検討されるが、自衛隊の「武力行使」は許されるのかという議論がはじまる。ありえない空論だ。
こういう会議シーンと会話をつないで、ゴジラ出現事件の進行をよみとらせようとしているのだが、理屈っぽい。

記者が語り合う場面では「国を守るって大変ですね」と言わせる。

やがてゴジラは幼体から成長して、あのごついゴジラの姿になる。

自衛隊を配備してゴジラ攻撃の態勢が整った。周辺住民の避難も完了した。いまにも「攻撃せよ」の指令を出そうとする首相がモニターを見つめていると、老人を背負って歩く住民の姿をみつける。
「攻撃中止!」。
わが自衛隊は国民を一人たりとも、戦いの巻きぞえにして死なせないというアピールだ。

アウトロー的なメンバーで構成されたチームは必死で生命体としてのゴジラを分析しようとする。ゴジラのエネルギー源は何か、分子構造はどうなっているのか、などなど。わけのわからない専門用語がでてきて、煙にまいているだけ。
メンバーの女が、句読点もつけない早口でしゃべりつづける。耳の右から左へ通り抜けていくだけだ。キャラの演出をしているのだろうけれど、無理がある。

ゴジラが首都圏に侵入するのを防ぐために、多摩川の河川敷に防衛線を敷く。自衛隊の攻撃ヘリや戦車、ミサイル装備の戦闘機のいよいよの出番だ。
政府の幹部がこう言う「自衛隊はこの国を守る最後の砦です!」。
自衛隊讃歌だ。

ゴジラの頭部を狙ってのドンパチドンパチが始まるが、まったく効き目なし。
攻撃する隊員のアップが映される。○○連隊小隊長といちいち字幕に名前がでる。いちいち名前など出す必要もない。読まされるだけ気が散るわ。

世界の国々はこんな怪物が自国に上陸したらたいへんだということになって、ゴジラを国連の監視下に置くことを決める。
連合国の主導でゴジラを破壊する計画が立てられる。
通常兵器でゴジラを倒せなかった自衛隊にかわり、アメリカ軍が熱核爆弾でゴジラを破壊しようというのだ。それも東京で。
核兵器の偉大な威力がここで宣伝される。自衛隊に核装備があれば…ということだ。欲しくなるよね。

東京での核爆弾使用を防ぎたいアウトローの特殊チームは、凍結剤でゴジラを封印しようと躍起になる。
核攻撃の前日に凍結剤の用意ができた。
福島原発で原子炉の屋上から放水した消防車のようなもので、特殊建機隊が長いアームを伸ばしてゴジラの口の中に凍結剤を注入するというのだ。
あたりを破壊しつくして、東京駅に陣取るゴジラ。こいつに向けて山手線や京浜東北線の空電車に爆薬を積んで突入させる。
線路にはガレキが積もって走れないだろうし、ゴジラに届かないだろう。茶番だ。

特殊建機隊の車両が一斉に走り出してゴジラに近づき凍結剤注入を開始する。道路だってガレキの山で、こんな車両が走れるわけがない。ここまでやられると呆れる。

はい、ゴジラ凍結して、モニュメントのように突っ立っています。おわり。

さてさて、CGを駆使した大スペクタクルのゴジラ映画ですが、これはまことに危険な映画なのです。
政治的に危険なものです。
憲法を変えて、海外派兵と海外戦争をやれるように策動する支配層の意に添った映画であり、自衛隊の軍備強化、武力行使を当然とする意識・世論をひろめようとするものです。
世の中に「中立」というものはありません。どのようなものにも「政治性」が存在します。
「私はどちらにもかたよらない」という意見は、そういうレベルの政治性をもっているということです。

避難する最後の一人の住民をみつけて、攻撃中止を指令する嘘。
国民を一人たりとも戦いの巻き添えにしないなど、こんな嘘八百を誰が信じますか。太平洋戦争ではどれだけの人民が殺されたでしょう。

「自衛隊はこの国を守る最後の砦です!」という嘘。
自衛隊=ブルジョア軍隊が守るのは独占支配者の利権です。

そして自国は自国で守るという、核武装にたいする許容意識をもたせる。

映画作品のうまい、へたの出来映えを言っているのではありません。
湯水のごとく制作費をつかって、このような反動的な映画をつくる「映画屋」が、興業成績のよさに高笑いして、芸術家を気取っているのだとしたら、人民大衆もバカにされたものです。
おもしろい、おもしろいと笑っているととんでもないことになります。