【その59】

世界で一番美味しいアンチョビ物語1950   mai

色とりどりの絹糸が、なよなよほどけて舌の先から、奥へ奥へとほどかれる。潮風や、濡れた船底、鳥の眼光。ぼろっとはみ出た魚の卵。ぎしぎし鳴る椅子、暗い顔した皺くちゃばばあ。

ピンク色した体から、すぅっと抜かれた小さな背骨。わたしを貫いていたサグラダファミリアの夢もろとも。それから長い間、あぶくひとつ漏らすまいとじっとしていた。悪いこと何もしてない。かといって良いことも。

ある日めりめりという音。

空が破れて、そこから入道雲のような女の目玉がぬっと覗いた。そして私は皿の中央に横たえられてひとりぼっち。まぶしくて眠たい。ーと、突然フォークぶすり、半透明の玉ねぎとぐるぐる巻にされ、あっという間に馬鹿女の口の中。

色とりどりの絹糸が、なよなよほどけて舌の先から。