【その51】

夜中の散歩     音   

日本橋川が隅田川にそそぎこむ手前に橋がある。南高橋という。
鉄骨を三角に組んだトラス橋というのだそうだが、門柱のような柱に趣があって好きな橋だ。この橋を渡ると新川。私のかつての職場は永代橋のたもとにあった。
毎日この南高橋を渡って新川の会社に通っていた。
橋のたもとには桜があって、木の小さなベンチがあった。
仕事帰りの遅くに通ると、また居るなと思う人がよくベンチに座っていた。
お婆さんをよく見かけた。
あるとき、そのお婆さんが腰を折って歩道の上を眺めていた。
「なにか探しものですか」と声をかけた。
「ええ、息子に渡す切符を落としちゃったんです」
「切符? どんなのですか?」
「電車の切符です。切符を渡さないと息子が来られませんから」
ベンチに座ってお婆さんとしばらく話をした。
息子さんは東京駅から歩いてきて、いつもこの橋を渡ってくるのだと。だからここで待っているのだと言った。認知症のお婆さんだった。
若いカップルがいたこともあった。通り過ぎるだけだが、何度も会うと同じ二人だと気づく。彼女が手を振って橋の向こうに帰っていく場面もあった。

川のある町では誰も橋を行き来する。橋は会える場所でもあり、別れる場所でもある。

日曜日の夜、眠れなくなったので自転車で散歩にでた。南高橋と桜を見たくなった。

この橋は、明治時代に架けられた両国橋が関東大震災で破損して、その中央部分をここに移設したのだという。両国橋の昔の写真をみるとその面影をみてとれる。
明治の貴重な橋が現役で残っているのだそうだ。

もうこの橋を渡ることもなくなって長い。いつもここから眺めるだけだ。
ここの桜が好きだ。

ついでに足をのばした。八丁堀から東京駅八重洲口に一直線にのびる桜通り。
桜のトンネルだ。

桜が散りはじめると、こんな狭い道だから桜の絨毯になる。
銀座通りにでて、神田駅のガードをくぐって思わずブレーキをかけた。

あれれ、トラス橋と同じじゃないの!? 違うのかな?
銀座通り(中央通り)の先に、こんな無骨な鉄骨むき出しの建造物がでてくるなんて…変。

見慣れている神田駅なのに、南高橋のトラスを撮影した後だったから、よけいに目についてしまった。

これ、機能美といえるのかな?
ほとんど前世紀の遺物みたいに見えるけど!
ペンキ、綺麗に塗ってあるからまっいいか。


車、ぜんぜん走ってないでしょ。深夜だから…
散歩、おもしろかったな。花見もしちゃったし。
橋の写真撮ろうかな、なんとも嫌いな橋もあるんだけど。