【その41】

にがうりの子   mai   

昼間仕事をしていたら、石井ちゃんが、店の扉をえっさえっさと開けて手にした紙袋をひょいと上げて笑った。
あ、いしいちゃん!
今年も苦瓜の苗を持ってきてくれたのね!
これで3年目。毎年いしいちゃんが種から育ててる大事な苗。
一つ一つ綺麗に包まれている。
いしいちゃんの繊細さにひれ伏したくなる。

わたし、これまでは苦瓜のためのネットをヘナヘナにしか吊るせなかった。何せ無精者で。
だけど、今年は違います。ざんざん降りの雨の朝、ベランダに立ち、静かな心で着実に、一つ一つ結んでく。ほら見たことか、園芸雑誌に投稿したいくらいの見事にネットをしつらえた!
まだ小さい苗をプランターに植えて、か細い蔓を強制的にネットにひっかけて風呂に入る。
風呂から出る。ベランダを見る。
すると、先ほどの蔓が、ネットをぐるりと一周、がっちり掴んでる。
仕事に行く。働き終えて、鈴ちゃんとビール2杯飲んで帰宅してベランダに行く。
朝の蔓が、ネットを三周、ぐるぐるぐると掴んでる。
にがうり相手に、だるまさんがころんだ、してる気分。独り興奮して、ガニ股でしゃがんで、肥料をやる。
見上げれば、ふやけた月。
月光をもぐもぐ食べて、夜も苦瓜は成長する。
本当なんだから。
明日の朝にはビックリ仰天よ。