【その35】

太郎の屋根   mai 

寝不足の朝は、目玉の表にしょっぱい膜が張ってる気がする。明け方に食べた、真っ赤なスパゲティが、一本に繋がって、腹の中でせっせと筆記体で何やら紡いでいる。こんな不埒な体を引きずって、仕事をしなければならないのは辛い。ハタキをかけた本棚から舞い降りてくる埃が重たく身に降り積もる。太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
お勝手口の雨樋はぐらぐらで、トイレのレバーは戻らなくて、ウェットティッシュはとうの昔に干からびた。そんな事を思い出しながら、パタパタパタとハタキをかける。
パタパタパタ。パタパタパタ。と、最近しつこく聞いているカンパネラが蘇る。あれを聴いていると、上りも下りもしない螺旋階段を走り続けている気分になる。丁度良い動悸と息切れで、顔を赤らめている自分が見える。