【その32】

光あれ   mai 

古書市特選会初日。
開場前、棚を作っている最中に、ふとお隣りのT書店さんの脇に掲げられた額装が目に入った。
へなへなの模様がびっちり。なんと!アンリ ミショーだ!!
一目見るや、全細胞が欲望のサバンナと化す。
私の裏表ひっくり返しても、隙間なく欲しいと言っている。全身全霊の求愛。
という訳で購入。

愛は底知れない。
大抵の物には正解が準備されるけど、それは、たぶん均衡のために。グニャグニャしたものが座りよく収まるために。
でも、愛はそれをちゃぶ台がえし! 一ヶ月以上冷蔵庫に放置されてるオレンジが未だに艶やかなオレンジ色でも大丈夫。

ミショーのへなへな人間達は額の中だけれど、家に持ち帰り、トンと立て掛けたとたん、よっこらせっと枠を跨いで部屋中に現れる。
果ては私の目の中耳の中まで、明晰な光に満ちて。原始の踊りを踊り出す。

久々に聴いたマリア カラスの心地よさたるや。伸びやかな歌声に、私自身もびよーんと伸びる。

すーさんから頂いたチケットで、ターナー展へ。光の習作がとりわけ気に入った。完成した絵より発生途中の絵の方が好きだ。ショップでターナーのマグネットをお土産に買って、冷蔵庫にペタリ。小さな窓が空いて、そこから淡い光が差し込んでくるようで、満足した。

光、について考えると何時間でも酒が飲める。ピンチョンの「逆光」というタイトルも味わい深い。原題はagainst the day。光に顔を向けると、目の前に闇。