幼かった頃、あれはヨガの一種なのか、私を寝付かせるためにキミコさんは、耳もとでこう囁いた。
右脚がどんどん伸びて、宇宙にまで届く〜。左脚がどんどん伸びて〜。
すると実際に自分の身体がみるみる膨張していく感じがして、えもいわれぬ浮遊感に包まれた。
キミコさんは、私が中学生の時になくなったけど、彼女が教えてくれたこの遊び、今も私は実践してる。
やるなら、こんな暑い日に限る。
もはや手足が伸びるだけじゃない。
髪がどんどん伸びる。
全身の毛穴が五ミリ位の大きさに口を開ける。ぱかぱかぱかっ。一斉に。
小腸が真っ直ぐにほどけて寛ぐ。
胃袋はクラゲのように海水に泳ぎ、染み付いた脂が剥がれて水面に浮かぶ。
股関節が外れてぐにゃぐにゃになる。
そんな私を私が見てる。
熊谷守一さんという画家を教えてもらった。様々に画風を変えながら、最後に辿り着いたのは、非常にシンプルなタッチ。描くのは「猫」「猫」「猫」「蟻」「猫」「蟻」。
「猫」の絵もいいが、「蟻」の絵がまた良い。「亀」の絵もたまらない。
その熊谷さん、ご自身の写真集が出ている。タイトルが「獨楽」。「こま」じゃなくて「どくらく」。
良い言葉だなぁ。
意味は違うかもしれないが、うだるような暑さの昼時、畳の上に寝そべって、己の身体感覚を惑わせていくのって、「獨楽」の一種だと思う。
だからみんなもやってみてね。やみつきになっちゃうから。
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