その他みんなの言いたい放題 【その1】mai

最終電車を待ちながら、自分の手を見る。紙は油を吸う。古本を触っていると手がかさかさになる。皿洗いも手がかさかさになる。だから、私の手はかさかさしてしまう。いつの間にかできた細かな傷もある。死んだ皮膚が白くなって傷口の輪郭線を描いている。

ポール・オースター(たぶん)の小説に出てきた、掃除機の訪問販売員。
この掃除機は、カーペットの中に散らばっている住人の身体のカスも記憶も根こそぎ吸い取りますから。
というようなことを言っていた。

指しゃぶりの癖が、幼稚園の年長になるまで抜けなくて、よく親にたしなめられた。朝、指がしわしわになっているのを、母親は目ざとく見つけて「指が可哀想。だったら私の指をしゃぶりなさい」と怒った。

指しゃぶりのせいで、前歯が出たので小学生の頃に歯の矯正をさせられた。歯にずらりと金属の橋がかけられた。当時はそういう子供が沢山いたけど、今はあまり見なくなった。

そういうわけだから、誰が何と言おうと、暖かな夜は窓を全開にして寝よう。朝、ビル風でカーテンが丸ごと外に持っていかれて、バタバタ音をたてる。まぶた越しの朝日にびっくりして目を開けると、むき出しの青空が頭上に見えるのだ。本当の話よ。そういう時は、つま先まで一気に青色が侵入してくる。

侵入してきて、どんどん侵入してきて、ふくらんで、ミシュランの白い男みたいになって、終いにはぷかーっと浮かんで、パチンコ開店のアドバルーンになるんだ、いつしか、私。