-エピローグ-

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 真雪は再度病院へ押し込めた。あんな状態でよくも抜け出してきたものだった。まったく誰に似たものか、無茶な奴だと弘毅は苦笑を禁じ得なかった。

 どちらにしても、この街にいればあの実力で組織に雇われていることだし、きっと何不自由することもなく暮らせることだろう。

 少々危険な匂いもするが、保護者もちゃんといることだし、きっと大丈夫。

 弘毅は宿に寄って多くない荷物を簡単にまとめると、さっさとチェックアウトを済ませた。

 この街に長くいると、それだけ情が深くなりそうだった。

 峻を失って13年、求めるだけ、振り返るだけの日々だったが、これでようやく前へ進める。そんな気がした。

 これからどこへ行こうか。東西南北、自在だった。どこがいいかと迷って、気が付いたら手にしていたのは生まれ故郷行きのチケットだった。

 帰ったとしても、もう誰も弘毅だと気づいてくれないかも知れない。

 だが、幼い頃に逃げるようにして後にした町には、風の噂によると兄夫婦が住んでいると言う。顔を見るだけでもいいかも知れない。

 そんなことすら楽しく感じられる自分がいる。

 弘毅は列車に乗ろうとステップに足をかけた。途端聞こえてきた声。

「どこへ行く気?」

 振り返るとそこに子どもの姿があった。左腕を白い布でぶら下げたまま、少しむくれた表情を向けていた。

「真雪」

 名を呼ぶと、一歩近づいて眉を吊り上げる。

「何で分かった?」

「それくらい分かるよ」

「そっか…」

 目を細めて自分を見下ろす弘毅に、真雪はぷくっと頬を膨らます。

「黙って行っちゃうなんてズルイよ」

「いや、だって、やることは済ませたし、もう用事はないだろうから」

「何でいつもそう勝手なんだよ」

 怒る真雪に、弘毅は苦笑を返す。

「ちゃんと聞いてる? そんな顔してもごまかされな…」

 ふと触れる唇。

 一瞬、周囲の喧噪が届かなくなる。静かに離れて行く弘毅の顔を見上げてくる真雪の頬は朱に染まっていた。

 その真雪に手を差し出す。

「一緒に来るか、真雪?」

 笑いかける弘毅に、真っ赤な顔のまま何か言いかけて、真雪はうつむく。

 どうしたのかと顔を覗き込もうとして、パッと上げられた顔はいっぱいの笑顔だった。

 その瞳に滲むものが見えた。

 弘毅はその手を取って、引き寄せる。

 抱き締めた腕に広がる温もり。片時も忘れたことのない温もり。

 その魂。

 何度生まれ変わろうとも。どんな姿になろうとも。

 峻――唯一の、存在。





   -END-




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