-序-

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 ドドド…。

 地響きとともに建物の崩れる音が響いた。土煙で煙るその中から姿を現したのは一人の少年だった。まだ15歳か16歳か、明るい栗色の髪と優しげな面立ちとは正反対の、光を宿さない暗い瞳が却って不気味さを漂わせていた。

 少年の手には「人間」が握られていた。大の男の身体を片手でひきずるようにしている。掴んだ首のその男は既に事切れていた。

「…どこ…あの人は…どこ…?」

 虚ろな瞳は深い赤色をしていた。感情のこもらない、光を反射しない影のような色で、明るい栗色の髪とは余りにも不釣り合いだった。

 その背後でカタリと物音がした。振り返ると、慌てて逃げる別の男の姿が目に映る。

「うわああ…っ」

 少年は手にしていた人間を放すと、素早く動いた。そして逃げる男の行く手をさえぎるようにして立ち塞がる。

「た…助けてくれ…っ」

 その腰に銀の鎖が光っていた。少年はそれに手を伸ばして掴むと、引きちぎる。その先に鈍色の懐中時計が繋がっていた。

「ほ…欲しいのならくれてやる。だから…」

「あの人、どこ…?」

 恐怖に脅える男の顔を覗き込み、少年は無表情のままに尋ねる。

「ボクを置いて行ったあの人、これを持ってた…」

 その手の中で、鉄製の時計が握り潰され、砕け散った。いとも簡単にやってのけたその力に、男は驚いて再び逃げようとする。それに気づいて少年は素早く駆け寄り、その首に手をかける。

「あなたもボクを置いて行くの?」

「た…助けてくれ…」

 命乞いに必死の男には、少年の瞳の奥は見えなかった。その手を解こうともがくが、その力は少年のものとは思えないくらいに頑強だった。

「どこに、行ったの…?」

 バキ…ッ。

 骨の砕ける音が聞こえた。とともに、男は頭を垂れる。

「あの人…コウ…キ…」

 動かなくなった人間を手放して瓦礫の上に立つ少年。辺り一帯は死体が幾つも転がっていた。





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