■ 風の奇跡 ■
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「あら、太子の所ではなかったのですか?」
部屋を出てそう声をかけられた。見ると見覚えのある少女が困ったような表情を浮かべていた。
確か、セレムと同じ国にいた少女――名はサラと言ったか――で、癒しの術を使うので生かしておいたと思い出す。
その少女が、セレムの思い人てあったとは知る筈もないレイヴァンであったが。
「何かあったのか?」
夜も遅いと言うのに寝床につかないでいるサラに、レイヴァンはリーダーの顔をして訪ねる。
「セレムが…まだ帰ってこないんです。随分前に外の風を吸ってくると言って出て行ったきりなんですけど…」
最近、よく一緒にいる所を見かけるので、レイヴァンの所へ来ているのではないかと心配で様子を見に来たのだと言う。
「いや、俺の所には…」
一緒にいると言っても、口論しているか肌を重ねているか、そんな理由ばかりだった。
それでも周囲からは仲良くしているようにでも見えたのだろうか。
レイヴァンは苦笑を禁じえない。
「じゃあ、あの子、どこへ行ったのかしら」
心配そうにするサラを、レイヴァンは心配ないだろうと励ます。
「セレムも相当な魔道の使い手だからな。余程の事がない限り心配することもないだろう」
「それが…魔道の杖を置いて行ってるんです」
サラの言葉に、レイヴァンの脳裏に嫌な予感が走った。
魔道の杖を持たない魔道士は剣を持たない剣士と同じだった。
「おい、この辺りって、最近凶暴な夜盗がはびこっているって話を聞いたぞ。村の女をさらって行ったりもするとか」
レイヴァンは背後からそう言ったヒースを見やる。
「捜した方が良くないか?」
「ああ…」
不安が一気に押し上げてきた。セレムの顔が浮かんで、消えた。