「何でそう勝手な願い事してんのっ」
「いいじゃねぇか。その通りになるかも知れねぇし」

 そう言って、寛也はとうとう殴られた。

 やれやれとため息をついて、潤也は話題を切り替えた。このお馬鹿な兄弟のために。

「ねぇ杳、今年の節分のゲスト、河岸充(かしみつる)だって」

 潤也は柱に記されている名前に、話題を振った。と、杳はすぐに食いつく。

「え? あー、ホントだ。すごー」

 この稲荷では節分の豆まきに毎年芸能人や有名人をゲストに招いている。その名が張り出されていたのだった。

「誰だ、それ」

 ぶつけられて地面に落ちた寛也の絵馬は、すかさず割り込んできた翔に踏み付けられて、真っ二つに割れてしまった。それを何とかくっつけようとしながら、寛也は涙目で聞いてきた。

「えー、ヒロ、知らないの? 今をときめくアイドルグループ『SAX−5』のメンバーだよ。アイドルなのに、歌、すっごく上手いんだから」

 どう言う偏見だか。でも寛也もそのグループ名くらいなら聞いたことがあった。

「へぇ。そんな売れっ子なのに、なんでこんな所に来るんだ?」
「呼ばれたからだろ?」
「いや、だからなぁ」

 年始から相変わらずのボケッぷりの杳に、寛也は頭を抱える。

「そんなの、どうでも良いじゃない。杳兄さん、下に屋台が出てたから、何か食べに行こう」

 翔が杳の腕を取る。齢(よわい)4000年を過ぎる竜王は、こんな時だけ子どもの顔をする。

 舌打ちすると、寛也の腹の虫が鳴った。


   * * *


 牛串を食べて、焼き鳥を食べて、クレープを食べて、タコ焼きと鯛焼きまで食べた。満腹になったところで、次に寛也の目についたもの。

「な、杳。今度これ食わねぇ?」

 美味しそうに油の染み出ているフランクフルトを見つけたのだった。

「えー。もう入んないよ」

 小食の杳は、クレープとタコ焼きだけを食べて満足していた。他の二人も、もう十分な様子だった。

「一口だけな? せっかく来たんだから、少しでも多く食っておこうぜ。残った分は俺が食ってやるから」
「もうっ」

 杳の返事も聞かずに、寛也は屋台に向かう。フランクフルトを1本だけ買って、すぐに戻ってくると、それを杳に差し出した。

「な、旨いぞ。食えよ」
「…仕方ないなぁ」

 眉をしかめながらも受け取って、杳はそれにかぶりついた。

 途端。

 パシャリ…。シャッター音が聞こえた。

 フランクフルトを銜えた杳の目の前、寛也が携帯カメラを構えていた。

「……」
「俺のもんにしゃぶりつく杳の図。すっげーエロいの、撮れたぜ」

 ジロリと睨む杳に気づかず、寛也は小躍りを始めた。

「この大殺界馬鹿ヒロがーっ!!」

 一瞬後、真っ黒に焦げた寛也が、爆風と落雷の過ぎ去った後に立っていた。

 今年もよろしくと、つぶやいて。




   END





少し遅くなってしまいましたが、明けましておめでとうございます。
こんなバカな子達ですが、本年もどうぞよろしくお願いします。


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