「ヒロはいつもオレの力になってくれて、側にいて守ってくれるから、ホントはもっと取っておきの物、用意したかったのに、ヒロ、言ってくれないし」

 それで、思いついたのがこれだと言うのか。寛也は顔の筋肉が緩むのを感じながら、弾む声を隠すことなく言った。

「一番うれしいもの、もらった」
「え?」

 寛也の言葉に驚いたように見上げてきた杳の肩を引き寄せて、そっと抱き締めた。

「ヒロ…」

 大人しく、されるままになっているのは、まだ誕生日プレゼントの一環なのだろうか。それとも寒いからだろうか。どちらでも構わなかった。

「サイコーのプレゼント、ありがとな」

 言うと杳は、寛也に身を預けてくる。少なくとも自分が思っている半分くらいは思っていてくれるのだろう。そして、自分の思いもちゃんと通じているのだ。本当は恋人と呼んでも良い間柄なのだろうが、それで十分だった。

「でも杳、今の、すこーし短すぎなかったか?」
「は?」

 寛也は、キョトンとして見上げてくる杳に、ニヤリと笑って、口付けた。今度はしっかり感触を楽しもうと思って。

 途端、目の前に火花が散った。パシンという平手の音が宵闇に包まれた山に木霊する。頬の痛みに、思わず緩んだ腕の中から、杳はするりと抜け出してしまった。

「調子に乗るな。もう、してやんない」

 プイッとそっぽを向く。その仕草がとても可愛くて、寛也は性懲りもなく、もう一度杳を抱きすくめた。

「ばかヒロ、放せっ」
「嫌だ。今のビンタの分、返させてもらう」
「何言ってんだ、それはヒロが…」

 文句を言うばかりの口を塞いだ。

 すぐに離すと、杳は怒った顔で見上げてきた。

 こんな顔も可愛いと思ってしまう自分。もう、末期だろうかと思いながら、囁くように告げた。

「好きだ、杳…」
「もうっ。そう言えば許されると思ってっ」
「ん。思ってる」

 言って、もう一度口付ける。今度は逃げられなかった。

 ゆっくりと寛也の首に腕を回してくる杳。その身体を柔らかく抱き締めながら、深く口付けていった。




 二人を包むオーラ。

 その周りを、薄黄色に光を放つものが、静かに舞っていた。


   END









読んでいただき、ありがとうございました。

今回の話は、寛也達が高校3年生の6月上旬設定です。
杳とは微妙な関係……になる予定です。


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