私が 今まで空想の映像で見ていたのは、 私のおばあちゃんが 赤子の頃の叔母を背負い、 六才の頃の父の手を引いて 火の中を逃げ惑う姿だった。
父は、 湯灌の終わったおばあちゃんの足を さすりながら 「この足がなあ・・ 千代子おぶって、 俺の手ェ引いてなあ、 大火のとき、 逃げてくれたんだよなあ・・」 と呟いて泣いた。
そう、そうなんだ、 父がさすっているその足は、 二人の子を連れて 昭和九年三月の函館の街を逃げ惑っていたのは、 若い わかい、 二十六才の女の足だった。