一週間前に 母の庭からもらった水仙が まだ香っている
母が一人で迎えた初春に 思いを馳せるように
「いちご狩りに行ってみたい」 と 母は電話口で言う
五月に七十歳になる母に 肖像画を描く約束をしている
父が七十歳になった時に 描いてあげたのと同じように
「ちゃんと白髪に描いてね、 この髪が好きなのだから」と 母は言う
今年の五月 母は 二つの肖像画を 並べて壁にかけるだろう
去年の五月 父は 並んだ肖像画を 見ることなく死んだ