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 第66話 「自分の都合で親切にする」

  こんにちは。おいらは、飼い主も家も名前もとくに決めていない犬であります。川ぺりをうろついていると、いろんなお話が聞こえてきます。犬にとっては、身につかないこともあるけれど。
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 おいら今日、近くの駅でとってもいい人を見かけました。お年寄りが切符の買い方をわからずにウロウロしていたら、声をかけて買い方を教えてあげたのです。ほかにもたくさんの人がそこを通り過ぎたのに、その人は困っている人を見過ごさなかったんだよ。
 だけどその人、駅の出口の所でホームレスの人が苦しそうにして話しかけているのに、そそくさと行ってしまいました。誰でも助けるわけではないみたいです。どうしてかな?

 不思議に思いながら歩くうちに、幼稚園に着きました。お庭で女の子が泣いています。転んで怪我をしたみたい。そうしたら近くにいた女の子が「だいじょうぶー?かわいそうー」と言ってなぐさめ始めました。周りの子も、その子のまねをするようにして「かわいそうだねー」「お水で洗わなくっちゃねー」などと同情しています。
 怪我をした子が先生に連れられて行ったすぐ後に、別の子が鉄棒から落ちて泣いてしまいました。それなのに、さっきなぐさめていた女の子は「あ、だいじょうぶかなー?」と言うだけで、そばへ寄ろうとはしません。なんとなく離れて別の遊びを始めてしまいました。おかしいなあ、さっき駅で見た人と同じだよ。相手によって、親切にしたりしなかったりするみたい。

 おいらは、近くに住んでいる「おせっかいばばあ」のことを思い出しました。おばさんはその名の通り、思いつくとすぐにパパパと行動する人なんだ。あのおばさんだったら、駅にいたホームレスのおじさんが何か言おうとする前に「ちょっとあんた、具合が悪そうじゃないの、救急車呼ぼうか?」と声をかけたに違いありません。誰かが鉄棒から落ちたら、それが誰なのかなんて考えないうちに「まったくもう、しっかりと鉄棒を握ってないからよ!」なんて言いながら頭のこぶをなでてあげるに違いありません。
 おばさんはよくこう言っているよ。「別に親切しようなんて考えないわよ、あたしは自分がやりたいように勝手に動いてるだけ!」てね。それでたまには出過ぎたことをするものだから、「おせっかいばばあ」なんていうあだ名をつけられてしまったのです。

 さっきの駅で見かけた人は、切符を買えずにいるお年寄りの時は「この人に手助けしても面倒なことにはならなそうだ」と一瞬で判断したから、親切にしてあげたようなのです。反対に、ホームレスの人の時は「この人に関わったら面倒なことになりそうだ」と一瞬で判断して、知らんぷりをしたということみたい。つまり、相手のためを思っているのではなくって、自分の都合で親切の相手を選ぶということみたいです。
 幼稚園の女の子も、最初に怪我した子は仲良しで、その後で鉄棒から落ちた子はあまり遊ばない子だったから態度が違ったようです。大人顔負けの判断力だなあ。

 夕方になって、おいらがぶらぶらと歩いていると、駅で見かけた人と幼稚園で見た女の子が並んで歩いているのに出会いました。この人たち、親子なのだね。女の子は、親が普段していることをまねしただけだったようです。そうして、自分の都合で人に親切にしたりしなかったりする大人になっていくのかなあ・・。

 そういえば、人間に飼われている犬というのは、飼い主さんに似ていることが多いよね。誰にも飼われていないおいらには想像もつかないけれど、飼い犬は大大大好きな飼い主さんと同じになりたいという気持ちがあるらしいよ。人間の親子というのも、そんなものかな?
 わんわん。またね。

(2008.7月掲載)