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 第53話 「賢い消費者と、まじめな消費期限」

  こんにちは。おいらは、飼い主も家も名前もとくに決めていない犬であります。川ぺりをうろついていると、いろんな人たちと出会います。犬にとっては、ごまかせそうなこともあるけれど。
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 おいら、今日は近くのスーパーマーケットに入ってしまいました。前からずうっと興味があったけれど、チャンスがなかったのです。もちろん、勝手にお魚やコロッケを食べようなんて考えていないよ、たまたま落ちていたら別だけれどね。

 目立たないように棚の間を歩いていると、なんだか気になる様子の人がいました。人というより、お尻、です。おばさんのお尻がこっちに突きだしてモゾモゾしているのです。
 おばさんは、お豆腐コーナーの棚の奥に腕を突っ込んで、一番奥にあるお豆腐を必死に取ろうとしています。それで、自然とお尻が突き出てしまうのだね。

 後をついていくと、おばさんは牛乳も一番奥から取ろうとしてモゾモゾしています。それから食パンも、ちくわも、お総菜コーナーにあるパック詰めの煮物も。奥の物を無理に取ろうとするから、手前にきちんと並んでいた品物はゴチャゴチャです。食パンはつぶれてしまうし、煮物の汁がふたの間から漏れています。どうやら、棚の奥に置いてあるものほど、新しいみたい。品物にはどれも「消費期限」という日付が書いてあって、新しいかどうかわかるのです。
 ふーん。スーパーでは、日付を見て品物を選ぶのが賢いということなんだね。

 いっぱいお買い物をしたおばさんの家までついて行きました。
新しさにこだわって買ったのだもの、きっとすぐ食べるに違いありません。そうしたら、おいらも何かもらえるかな?

 おばさんは冷蔵庫を開けると、いろいろと取り出しています。お豆腐や牛乳、かまぼこや菓子パンです。そうしてそれらをポイ、とゴミ箱に入れてしまったから、おいらびっくり! だって、どう見ても封が開いていない物ばかりだからです。
 そうしていろいろと捨ててスッキリした冷蔵庫に、今日買ってきた品物をきちんと入れ始めています。そんなにきちんと入れなくってもいいから、早く食べればいいのになあ。

 おばさんは、賢くお尻をモゾモゾさせて新しい品物を買ってくるのに、すぐには食べないみたいです。そうして結局、消費期限をすぎると自動的に捨ててしまうらしいのです。開けてにおいをかぐとか、ちょっと食べてみて、傷んでいたら捨てればいいのになあ。ぴっちりと封がしてあれば、簡単にカビたりしないはずだよ。そんなこと、犬のおいらも知っているのになあ・・。
 おばさんの「賢さ」は、現代風なのかもしれません。おいらみたく、自分でにおいや味をみて確かめるのは、古くさくて恥ずかしいことなのかもしれないなぁ。

 おいらがいつもいる川ぺりには食品の工場があるから、ちょっと知ってるよ。そういう工場では、消費期限を過ぎた品物は全部捨ててしまうんだ。だけどおばさんとは違うんだよ、たくさんの人のために食べるものを作っているから、きちんと決まりを守らなくてはいけないのです。お金儲けのために、売れ残りを再利用したり、日付をごまかしたりなんて、あるはずがないんだ。

 だけどおいら、まじめな食品会社の人たちにコッソリ教えてあげたいな。「そんなにきまじめに製造年月日や消費期限の表示をしなくっていいよ、賢すぎるおばさんのことを考えたら一日くらいごまかしてもいいよ!」てね。
わんわん。またね。

(2007.11月掲載)