第52話　「あら探しの秋」

　　こんにちは。おいらは、飼い主も家も名前もとくに決めていない犬であります。川ぺりをうろついていると、いろんなお話が聞こえてきます。犬にとっては、眠くなることもあるけれど。
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　秋になりました。人間は、秋にはいろいろなことをしたくなるみたいです。「食欲の秋」とか「スポーツの秋」とかいう言葉があるものね。
　おいらは秋じゃなくても食欲はいつもあるから、今日は「読書の秋」をまねするために図書館に行ってみることにしました。

　図書館に、お父さんと調べものに来ている小学生がいました。学校で、国会のことを勉強しているようです。
「お父さん。国会は、選挙で選ばれた議員が国民を代表して、国の大切なことを話し合って決める場所のはずだよね。」
------そうだよ。『決める場所のはず』なんて、君はずいぶん遠回しな言い方するなあ。
「だって昨日、テレビで国会中継していたのを見たんだよ。だけど、国の大切なことは話し合ってなかったよ。」
　えー？　この子は、国会議員が話してたことの内容がわかるみたい。すごいなあ。

「領収書を書き間違えたこととか、話してたよ。大臣の家賃とか食事代のことって、国の大切なことじゃないよね？」
------ああ、そのことか。そんなこともないよ。国会議員が使うお金というのは、僕たちが働いて納めた税金を使っているんだ。ほら、この本にもそう書いてある。その税金を、嘘をついて、国とは関係のない食事や旅行に使っていたとしたら大変だ。だから、ごまかしがあれば謝らせたり、お金を返させたりすることも国の大切なことなんじゃないかな？
「そうか！そうだね。ふうーん。」
------わかった？
「うん、わかった。でもね、ほかにももっと、時間をかけて話し合った方がいいことがたくさんあると思うんだ。みんなが安心して暮らせることとか、ほかの国と仲良くすることとか、いっぱいいっぱい。
　それなのにどうして、国会ではあんな細かい、大臣のお金のことばかり話すの？　そういうことは専用の委員会を作って、そこで話し合えばいいんじゃないかなあ？　学校でも生活委員会とか保健委員会とか、分かれているんだよ。」
　この子はずいぶん頭がいいんじゃないかなあ。国会と、学校の委員会活動を比べて考えることができるなんて、おいら尊敬してしまいます。お父さんもビックリしながら、手元の本をめくっています。

------大臣のお金の使いみちっていうのは、国民がすごく関心があることなんだな。だから特にテレビ中継することが多いんだ。テレビで国民が見ているとなれば、不正を追及する野党にしても、格好いいところの見せ場だ。質問に大臣がうろたえる様子なんかがテレビに出れば、次の選挙にも影響があるからね。もちろん、野党が与党に追及されることもあるけれど。
　それでええと・・ほらこのページだ。『国会審議は、委員会を中心に行われます』だって。参議院と衆議院の下にいろいろな専門委員会があるらしいよ。それは学校と同じだね。その委員会で、いま君が言ったような国の大切なことをたくさん、別々に話し合っているんだよ。テレビにはあんまり出ないだけなんだ。
「ふうん。ボクはてっきり、大臣の細かいあら探しばっかりしているのが国会なのかと思ったよ。違うんだね。」
------そうだよ。ほら、週刊誌とかワイドショーで芸能人のうわさ話が派手に出るのと同じだよ。人をおとしめるような話題というのはみんなの興味を引くんだよ。そういう話題からでも、一般の人が政治に興味をもてばいいということじゃないかな？」
　政治というのは、派手な話題性がないと、みんなが興味を持ってくれないみたいです。だけど、大臣が変なお金の使い方をしていなければ、そんなことの追及に時間を食う必要もないはずなのになぁ・・。

「そうかぁ。政治の話が退屈だからって眠くなったらダメなんだね。目をパッチリ開いて見ていれば、大臣や議員の人は悪いことしないで、国のために働いてくれるんだね。」
------おー、その通り！　君もなかなか頭いいねえ。
「そんなことないよ。・・でもさ、それじゃあ、国会中継に映ってた国会議員の人は政治に興味がないのかなあ？　だって、ウトウト眠っている人が何人もいたよ！　そういうの、見ちゃいけないのかな？」
　嘘やごまかしをする議員と、審議中に眠っている議員と、どちらの方が悪いのか、おいらにはわかりません。この子ぐらいに何でも一生懸命見たり考えたりしていれば、自分のやっていることの善し悪しはわかりそうだけれど。
　わんわん。またね。

（2007.10月掲載）