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 第48話 「おばあちゃんと呼んでね!」

  こんにちは。おいらは、飼い主も家も名前もとくに決めていない犬であります。川ぺりをうろついていると、いろんな人たちと出会います。犬にとっては、ホッコリとすることもあるけれど。
        * * * * * * * * * * * *

  セミの声が「ジージー」から「カナカナカナ」に変わる時間になると、必ずどこかで盆踊りとかお祭りが始まります。おいら、お祭りは大好きです。特に夜店がね。
 夜店が並ぶところでは、お小遣いをもらった子どもたちが、好きな食べ物を買ったり金魚すくいをしたりして楽しそうです。お祭りの日は、親を家に置いて来る子が多いみたい。

 そんな中、髪の毛が真っ白な女の人がゆっくりと一人で歩いてきます。あれれ、この人はさっきもここを歩いていたよ。きっと、お祭りの雰囲気が好きなのだね、子どもたちの様子をニコニコと眺めています。
 向こうから小学生が走ってきました。白髪の女性にちょっとぶつかったら「あ!おばあちゃん、ごめんなさい!」とすぐに謝ってまた走ってゆきました。そしたらその人、とってもうれしそうなんだ。胸にそっと手を当てていました。

 その人がベンチで休んでいると、さっきの子どもが戻って来ました。
------あのー、さっき謝るとき『おばあちゃん』って呼んでごめんなさい。
「あら、何言ってるの坊や! 私はとってもうれしかったのよ。・・だけど、どうして『おばあちゃん』て呼んじゃいけないって思ったの?」
------うん、僕のおばあちゃん、二人いるんだけど、本当に二人とも僕の『おばあちゃん』なんだよ、なのに『おばあちゃん』って呼ばれたくないんだって。
「まあ。それじゃあなたお二人を何て呼んでいるの?」
------お母さんの方は『おおママ』、お父さんの方は『ちえこさん』だよ。
「あらま、もったいないわねー、せっかくこんなにかわいいお孫さんがいるのに『おばあちゃん』って呼ばせないなんて・・。子どもも孫もいない私からすると、本当にもったいないわ!」
------もったいないの?
「そうよ、もったいない! 私はさっき、あなたから『おばあちゃん、ごめんなさい!』って言われて、ホッコリとうれしかったのよ。サルスベリのお花が、心の中でコロコロ笑っているみたいだったわ。」
 なんだかおいらには難しい表現だけれど、とにかくうれしかったんだね、この『おばあちゃん』は。

 でも、子どもにはその意味がなんとなくつかめたみたいです。
------うん。僕が『おばあちゃん』って呼んだから、心がつながったんだよね。
「ウフフ、あなたの言う通り! 名前を知らなくても『おばあちゃん』って呼んでもらうだけで心がつながってる感じなの、私にとっては。・・そうだ、あなたのお友達にも自分のおばあちゃんを『おばあちゃん』と呼ばせてもらえない子がいるのでしょう? みんなこれから、私のことを『おばあちゃん』と呼んでいいわよ! きっとそのうち、本物の『おばあちゃん』たちがヤキモチ焼くでしょうけれど!」

 子どもたちの本物の『おばあちゃん』たちは、どうして『おばあちゃん』て呼ばれたくないのかなあ? 大切な孫と心がつながることよりも、自分が年を取ったことを見ないようにする方が大切なのかもしれません。
 まあいいや、ここに町の素敵な『おばあちゃん』が一人いるんだからね!
 わんわん。またね。

(2007.8月掲載)