犬にとっては・目次へ戻る

 

 

ののぱりこのホームページ・目次へ戻る

  犬にとってはタイトル
 

 第46話 「統計によりますと」

  こんにちは。おいらは、飼い主も家も名前もとくに決めていない犬であります。川ぺりをうろついていると、いろんな人たちと出会います。犬にとっては、あきれることもあるけれど。
        * * * * * * * * * * * *

 おいらがいつもいる川ぺりは、楽しいお散歩日和ばかりではないんだよ。とても寂しくてゾクッとする日もあるのです。例えば、今日みたい、しとしと雨の昼間もそうなんだ。

 こんな時は、うつむいてとぼとぼ歩く人が目立ちます。この前出会った、近くの中学生の女の子二人もそうでした。傘も差さずに携帯電話だけ持って、下を向いて、手はしっかりとつないで、ふらふらと歩いていました。「いつにしようか?」「どうやる?」「絶対ぜったい、私たち一緒だよね!」なんて、お出かけの計画でも立てているような会話なのに、なんだか暗い雰囲気です。おいら、心配しながら後ろ姿を見送りました。

 何日かして、その二人がまたやって来ました。今度は鞄を持っています。川ぺりの、人目につかない所へ行くのでおいらは後をついて行きました。鞄に入っていた本や何かを地面にバラバラと落としました。そこには「自殺マニュアル」とか「遺書」とか「お父さんお母さんへ」と書いてあります。えー! 「自殺」て、自分で死んでしまうことだよね? もしかしてこの二人、お出かけではなくて死ぬ計画を立てていたの!? 自殺を考えるなんて、すごく特別な人のすることかと思っていたから、びっくりです。

 おいらがゾーッとしていたら、二人は地面に落としたものにライターで火をつけました。その辺に落ちている小枝で、全体に火が回るようにかき混ぜています。
「あんなオヤジと一緒にされたくない。自殺するのイヤになっちゃった。」
「うん。私たちがこんなに悩んで自殺しても『年間の自殺者数3万人』なんていう数字になったら、大臣のオッサンの自殺とひとまとめにされちゃうんだ、何かムカつくよ。」
「鈍感に生きてる奴らにもムカつくけれど、自分のやったことに責任取らないで死んだオッサンにも、もっとムカつく。」

 どうやら、二人は自殺のことを考えるのをやめたようです。大臣のおじさんが自殺した理由がどんなことなのかは知らないけれど、少なくともこの二人の自殺をやめさせる力になったわけだね。『年間自殺者数3万人』という数字を通して、自分たちのことを少し客観的に見られるようになった、ということなのかな? 世の中って、変な風につながるものだなあ・・。
 だいたい、一年にどれだけの人が自殺したか、いちいち数えている人がいるなんて、あきれちゃうなあ。
わんわん。またね。

(2007.7月掲載)